NHK放送文化研究所 シンポジウム 『きょうの料理』の60年

 

 3月7日から9日まで、NHK放送文化研究所が毎年開いているフォーラム、「テレビの未来 メディアの新地図」という研究発表を聞きに行ってきた。
 全部でAからGまで7講座あったのだが、そのうち3講座だけ聞いた。
 Aは『欧米メディアのマルチプラットフォーム展開』という、舌を噛みそうにカタカナ語ばかりが飛び交う内容で、アメリカの公共放送・PBSの副社長と、CNNデジタルのこれまた副社長兼編集長のキャリア美人らがゲストで講演した。他に研究員がBBCの現状説明も行った。
 ゲストの2人は当然ながら自局の自慢話がほとんどで、さっぱり面白くなかった。自慢話で悪ければ、いかに多角的に展開しているかという説明だ。
 3日目のF講座、「放送の中の美化語を考える」というテーマには興味があったので、ちゃんと聞いたが、別の機会に書くつもりである。
 本日取り上げたいのは最後のシンポジウム、「『きょうの料理』60年の歴史とこれから」についてである。冨田勲が作曲した、例の<タンタカタカタカタッタッター>と調子のいいイントロ曲で始まる「きょうの料理」である。
 私は今でも「きょうの料理」のテキストを9冊もっていて、1番古いのは昭和40年代のものである。正月料理を参考にしたのと、私が作るわが家風春巻は、もともとこの番組のテキストを参考にしたものである。
 パネリストは料理研究家の土井善晴さんと、40年間ディレクターをやってきた河村明子さんという怖そうなオバサン。彼女は開口一番、パンフレットに載った自分の写真が(ブスで?)気に入らないと、「2センチぐらいの写真だと言ったから(適当に送った?)」と主催者に文句を言った。女っぽい発想で可愛い。
 いかにも長年のNHK局員という雰囲気のある女性だが、語る内容は生き字引そのもので、最も聞くに値した内容だった。
 土井さんは有名な四国弁丸出しの土井勝さんの息子さん。子供の頃、友達にお父さんが料理で有名人なので、「お前の弁当はどんなものか」と友達に言われて嫌だったとか。有名税で苦労したのだ。この方はある種の田舎臭さがあって私はあまり見ないのだが、パネリストとしては優秀で、料理を作るその先の人間愛みたいなものを、それとは語らずとも感じさせる話し方で、感心した。
 彼の発言の「料理の向こう側にあるものを食べる」は名言である。
 もう1人Sさんという西の方の大学の准教授という人が出ていた。理論社会学が専攻とあったが、私にいわせれば、大学の文系センセイの、中でも社会学のセンセイほどどうしようもない人種はいなくて、あちこちの文献からネタを拾い「ああだ、こうだ」と言うだけ。
 NHKの毎度悪い癖で、自分たちが物凄い蓄積をもっていて、人材も揃っているのに、何故か外部の、大学のセンセイなどを呼んできて権威付けをさせる。こんな無駄なことはやめた方がいい。理系のお医者様とか科学者ならともかく、文系のデモシカ教授はいらないのだ。このSさんも頓珍漢なことを言っていた。
 まるで昔の日本では家庭の専業主婦が料理を作っていなかったような発言。私の愚息より若く、『経験という最も科学的なもの』を知らないお粗末ぶりだった。日本の主婦たちは戦前から、食材のない戦中戦後も、苦労して買い出しに行き、工夫して家族のために手作り料理を作ってきたのだ。なにも、料理を作らなかったから、この番組を参考にして当たったかのような物言いは間違いである。
 昔は外食産業もほとんどなく(大都会以外は)、出来合いのお惣菜も都市の真ん中以外では売ってはいなかったのだ。
 それはさておき。
 「きょうの料理」は半年前に企画会議、放送2週間前にカメラリハーサルをして、ようやく本番収録という手間をかけている。要するに丁寧に作っているのだ。だから、60年間変わらず「堅苦しい」とか「流行おくれ」とか「マンネリ」とかけなされながらも続いてきた。作り手たちも何を批判されようともヘノカッパでいい。
 今は若い子たちは動画付きのSNSを参考にして、テレビや本や新聞をあまり参考にしない、とのデータもある。しかし、「料理の参考にするもの」の文研の調査によれば、半数近くの若い子たちが「家族から教わった」という項目に〇をつけている。自意識過剰になって「きょうの料理」が時代遅れか、などと心配することはないのだ。私の春巻のように、この番組からヒントを得て、己れの得意料理に加え、それを次世代に伝承してゆくキッカケを作っている点において、こうした番組の貢献度は高いのである。
 河村さんは30年前に、朝日新聞にこの番組をこっぴどく批判されて抗議したことがあるそうだ。多分的外れな批評だったのだろう。彼女曰く。「ラテ欄に飛ばされた記者が、ふてくされて批判したのではないか」と。
 そうそう、新聞社では政治部や社会部が花形で、ラテ欄には場末感があるから、言えてる。抗議が聞いたのか、近頃では褒めてくれるそうだ(笑)!
 ショウアップした料理番組より、「60年間変わらないスタイル」で「退屈」「マンネリ」と批判される「きょうの料理」で結構。
 デパートの地下食品売り場が≪情けない総菜屋≫と化している現在、右顧左眄せずに、日本人が営々と伝承してきた家庭料理を、偉大なるマンネリズムで放送すればいいのだ。ダシの取り方1つ知らない女性がうじゃうじゃいるから。
 パリに留学中、12年間も自炊をしていたわが息子でも、私から見れば料理の基本も体得していない。
 これから精々、この番組を見ろ、と言うつもりである。