40年ぶりに国技館へ大相撲秋場所を見に行った

 

 元々わたしは大相撲ファンではない。
大男の格闘技は押しなべて苦手である。汗臭さを感じるスポーツはノーサンキューだ。
 だから、積極的にテレビでも本場所中継は見ない方で、夕方に何となく画面を映しているだけだった。
 今の大相撲、横綱は2人ともモンゴルの方たちであるし、その上、休場続き、「国技、国技」といっても、「どこがこれで国技なんだ」と毒づいている人間である。
 それが、40年ぶりに国技館へ秋場所を観戦に行ったのだ。
 雹(ひょう)が降りそう。今、40代の息子が子供の頃、相撲マニアで有閑マダムの叔母が、わざわざ大阪から出てきて、私たちを升席に連れて行ってくれて以来である。
 なんで突然行ったのか。
 実は、あるカード会社からくるお勧めイベントの案内に、たまたま、8月の初め頃、9月の夫のお誕生日の当日の升席が、僅かだけど残っていると勧誘されたのである。
 「へ?」と思って、辿ってゆくと升席料はめちゃ高い。その代わり、いろいろと付属物をくれる。お弁当にお飲み物2種類と、焼き鳥に枝豆、豪華なパンフレットがついて、さらに、お土産として、洋菓子の箱とお煎餅やおかきの箱、相撲の柄の特製小鉢、さらにさらに特製のあんみつ。砂かぶりの席では飲食禁止であるが、升席は飲むのも食べるのもOK。これは行楽気分で楽しいではないか。
 やっぱり、大昔からの日本文化だナ。
 バースディは物のプレゼントよりいいか、と思って夫に聞くと、当日の予定はないというので、10歳の孫とその親どちらかで丁度4人になる。クリックするとアッという間にお席は取れてしまった。来年のオリンピックチケットは「外れ」人対象の再申し込みにもまた外れてしまったというのに、こっちはあっさり買えて悔しい。
 暫くして大袈裟な書留でチケットが送られてきた。黒地に金文字の浮き出しがあり、案内所の番号や案内所の名前(個人名?)、電話番号まで書いてある。畏れ多い。
 当日、中入りより少し早めに国技館に到着した。昔とは大違いのピカピカ国技館、とても美しい。案内所に入ると赤提灯が下がった風情のある通りで、両側にずららーっとナンバーの掲げられた案内所が並んでいる。目的の場所に近づくと、女性が2人こちらを向いて座っていて、案内してくれる着物姿の旦那衆が挨拶する。彼らの袴が独特だ。
 後からくる(孫の下校が遅い)孫とその親の分まで、4人分のお弁当や飲み物、パンフレットなどを、ワンサカともった旦那衆について入ってゆくと、「わあ、綺麗、壮観!」と歓声を上げたくなるような会場が見えた。
 西〇〇側の入り口から入り、少し下って右折、細い通路を通ってわが升席に着いた。もう会場はお客様が一杯で、土俵の上には『満員御礼』の垂れ幕が掲げられている。ほう、横綱休場でも人気が盛り返してきたのだ。
 4時半ごろに土俵上の取り組みそっちのけで、私だけ外に出て孫たちを待つ。国技館の入り口のことを何と呼ぶのか常識がないが、とにかく、芝居小屋に例えれば『木戸』に当たる正門の内側で家族の到着を待つ。2人のオジサンがモギリをやっている場所から少し離れたところに、団体の入り口があり、私が立っていた間に、2組の小学生の集団が入ってきた。
 彼らは引率の先生と一緒にちょっと離れたところのお相撲さん巨大パネルの前で、整列してパチリ。記念の写真撮影である。ははあ、下町の学校には相撲見学という校外学習があるのだ。
 私は見るもの聞くもの珍しくて楽しい。案内所の通りとは別の正式な正面入り口から入ると、両側の壁面に素敵な相撲の過去が日本画で描かれている額が並んでいる。
 さて、肝心の相撲見物と言えば、この日、おチビちゃんの炎鵬がちょこまか動いて勝ち、私の大好きな遠藤も勝ち、拍手喝采。
 升席では、私はテレビ中継ではわからない観客の動きばかり見ていた。凄かったのは隣の隣の升席にいたオバサマたち。『竜電』の名前が書かれたタオルを左右に振りながら、「竜デーン」と絶叫する。ちょっと男前で色白だから熱狂的なファンなのだナ。
 それより凄いのは御嶽海の応援勢力だ。彼らは升席には余りいなくて、もっと後ろの椅子席に陣取っている。手に手に『御嶽海』のタオルを振り振りわあわあと叫ぶ。
 実は御嶽海は長野県の出身で、わがセカンドハウスに行くと、場所中は全民放もNHKも朝から晩まで御嶽海にジャックされる。勝ったら勝った、負けても御嶽海の動向ばかり。その応援団が丸ごと国技館に連日の遠征に来ているのだろうか。
 田舎には娯楽が少ないから、テレビを通しての熱狂になるのかとも思うが、御嶽海への地元愛は少々、理解に苦しむくらい激しいのである。サッカーの松本山雅に対しても応援は凄いが、御嶽海についてはその比ではない。田舎は相撲ファンが多いのだろう。
 4人が揃ってから、やおら幕の内弁当を開けた。だらだらと食べられると困るからか、全体に小ぶりで量も少ないので、ピッタリ小食の私向きである。私の右隣りには中間管理職といった年頃のオジサンが3人、ビール飲みのみお喋りに夢中。はて、こんな時間に仕事を抜けて相撲見物とは、どういう人たちなのか。接待にも見えないが、超楽しそうである。
 恐らく、私のように自腹で買ってきた人ではなく、法人の負担だなと恨めしく眺める。
 発見したのは、大相撲見物と言えば、てっきりジジババの洪水かと思っていたが、若い人たちも多かったこと。
 また、NHKのテレビ放送で、殊勲をあげた力士にインタビューする場面で、近頃つくづく感じるのは、大昔の「う」とも「す」とも言わない無口なお相撲さんが消えたことだ。大学相撲部の出身力士だけでなく、十代から相撲部屋に入って修業してきた力士でも、結構喋る人が多い。つまり、SNSなどで個人的に言葉を発信することに慣れた結果かもしれない。
 感覚的にお相撲さんたちがスマートになった。
 秋の1日、懐は寒くなったが、お祝いの夫も喜んでくれて、結構な相撲見物日和でした。