高橋大輔くんが源九郎判官義経になった!

 

 先週の日曜日に風変わりなイヴェントを見に行った。
 「氷艶 破沙羅」という歌舞伎とフィギュアスケートとのコラボレーション芝居(?)である。
 ずーと前にチケットを買ったまま、忙しいので碌に調べもしないで、ただ、頭の中には、大ファンだった高橋大輔くんが出演する氷の上のショーという認識だけあり、何気なく出かけたのだ。場所は東京体育館と覚えていたから何の疑いもなく、総武線の千駄ヶ谷駅に降りた。
 東京体育館ではプロフェッショナル社交ダンス競技会がよく行われるので、学生時代にその世界のボス的存在だった夫に付き合って行くので慣れている。
 こんなに大きな会場でのイヴェントなのに、駅を降りた時、なんか人が少ないなあと思った。近づくと、どこにも「氷艶」などと書いてなくて、看板は「NHK杯 体操選手権」とかなんとかになっている。はて?
 見回しても他には会場もない。ヤバイ。
 時間は迫ってくる。
 体操会場の受付にいる制服を着たお姉さんに「氷艶」の会場はどこですかと聞くと、ニコリともしないで首を振って黙っている。2人いた女性の2人共が「わたしゃ知らない」という態度なのだ。そのうち奥から男性が出てきた。カクカクシカジカと説明すると、私からチケットを取って、「ああ、これは第一体育館です」という。
 たまげた。第一体育館というものが別にあるの? 私は昭和20年代からの根の生えた東京人なのだが、第一体育館って、どこだ?
 私が行くべきところは「国立代々木競技場 第一体育館」だった!
 慌ててタクシーを捕まえて、ぶっ飛ばしてもらい、890円払って開演2分前に辛うじて間に合ったのだ。だが、私にも言い分はある。1964年の東京オリンピック開催時に建てられたこの第一体育館は「オリンピックプール」と呼ばれていたのだ。間違ってしまうだろ、いつの間に第一体育館に改名したのだ。
 席に座るか座らないうちにもう始まった。会場は結構空席だらけである。リンクに近い下の方の席だけが満員で、私は1人分16,000円のS席だったが、遥か上の方のトンデモ席なのである。ムッとする。
 2,500円の写真だらけのプログラムによれば、日本テレビとユニバーサルスポーツマーケティングと松竹と、それに橋本聖子氏がボスの日本スケート連盟が噛んでいる企画である。読んでみるとハハン、わかった。2020年の東京オリンピック狙いだナ。言い出しっぺは誰だか知らないが、歌舞伎の市川染五郎さんが演出もし、スケート界の引退した元スターである高橋大輔くんと、荒川静香、鈴木明子、織田信成、村上佳菜子(あめのうずめのみこと)、浅田舞さんたちが、それぞれ役を与えられて参加しているのだ。
 物語は宙から降りてきた破沙羅草紙から、女神稲生(荒川静香・めがみいな)が作り出す話の世界が展開する。仁木弾正直則(市川染五郎・にっきだんじょうなおのり)という歌舞伎の国の大悪人と、歌舞伎の英雄である源九郎判官義経(高橋大輔・みなもとくろうほうがんよしつね)などの善人との対立である。
 義経が助ける天つ國の皇子である瓊瓊杵尊(織田信成・ににぎのみこと)、彼と相思相愛の花のように美しい木花開耶姫(浅田舞・このはなさくやひめ)、彼女の姉の岩長姫(市川笑也)は瓊瓊杵尊を恋慕しているが拒絶されて復讐を誓う。妖艶で恐ろしい岩長姫になる市川笑也くんはエロキューションもいいし、他の歌舞伎役者のように、台に乗っての移動ではなかったので、「あれ、スケートができる歌舞伎役者だ」と見ていると、パンフレットに書いてあった。
 笑也くんは学生時代にアイスホッケーをやっていたという。道理で上手いと思ったが、スケート靴はアイスホッケー用とフィギュア用とは違うのだそうだ。
 会場の展開が速いし、物語の事前の予習をしていなかったことで、筋を追うだけで精一杯、加えて、双眼鏡まで持参していたのに席が上の方で人物の顔はよく見えない。だから、静御前になる鈴木明子さんと女神になる荒川静香さんの役を混同してしまったりと散々である。
 頭に来たので、休憩の後はガラ空きの下の方の席に移動した。スタッフの手が足りないと見えて、私が毎度通っているクラシック音楽関係のイヴェントなどのように、移動したら誰かが文句を言いにすっ飛んでくるということもなかった。
 お陰で第2幕からは少し人物の顔も見えた。
 DRUM TAOによる太鼓連打、おどろおどろしい悪の情景を映し出すプロジェクションマッピングは見事で、スーパー歌舞伎で見慣れた宙づりもスケートリンクなのでスケールが大きく、エンターテインメントの極みである。
 私の好きな高橋大ちゃんは義経の衣装がいささか奇天烈で、スカートのような袴のような一見和洋折衷の極彩色の下衣の上に鎧の肩当てだけが付いている。1人で踊る場面もあるのだが、なんか動きにくそうで残念だった。
 私の最大の不満は音楽である。完全にこのイヴェントのために作曲されたものらしいが、前半は和風と洋風のちゃんぽんのメロディーに、中近東かアフリカのごときフレーズも顔を出す。はっきり言って統一感がない。エンタメそのものの通俗的な音階もある。後半は完全に歌舞伎の伴奏(三味線など)と太鼓連打で、全編を歌舞伎調で統一した方が良かったと思う。
 まあ、異質の「美」をコラボし演出した市川染五郎くんの意欲と実験は、面白いと言えば面白かったが、残念ながら、完璧に成功だったとは思えなかった。
 テレビ局(日本テレビ)の制約が色々あったのか。