運転免許証更新手続きの、失敗と成功、ドタバタ協奏曲

 

 私は以前にも書いたように、昨年の2月に運転免許証を返納して、「運転経歴証明書」というカードを貰った。
 何十年間も無事故無違反だった優良ドライバーではあったが、ほとんどペーパードライバーに近かったから違反もなかったのである。
 私が住んでいる東京では閑静な住宅街にもかかわらず、近くにスーパーはあるわコンビニもあるわで、ほとんど車はいらない。そのくせ、自家用車のパーク代はバカにならなくて駐車場の肥やし状態なので、免許はいらないほどだった。
 ところが、セカンドハウスの安曇野穂高に行くと、車がなくては何もできない。公共交通機関は全くないし、タクシーばかり呼んでいたら破産する。
 近くまで高速バスかJRで行って、現地でレンタカーを借りねばならない。
 だから、夫には続けて免許証は更新していてもらわないと困るのだ。
 彼の運転技術はウルトラ上手くて、若い頃、新聞社でレジャー記事を一時担当していた時には、レーシングマシーンに乗って、サーキット場を走り回っていたほどの腕前であった。今この腕前は息子に遺伝している。
 9月生まれの夫は事前の「新高齢者講習制度」というのを教習所に受けに行って、無事にパスして、お免状(?)をもらって帰ってきた。
 善良な市民だなあ。
 そこで今度は、誕生日が来る前に、免許更新のために都庁へ出かけたのである。彼も何かと忙しいのに1日潰して都庁の更新センターへ行ったわけだ。
 チョチョイのチョイで更新して帰ってくると思っていたら、スマホが鳴って、夫の情けなさそうな声が聞こえてきた。
 「視力ではねられたんだよ」
 「えーっ? だって、講習を受けた教習所では視力もパスしたんでしょ。なんで見えないの?」
 「ちょっと間を置いてもう1回やってくれるらしいけど・・・」と夫は自信なさそうにいう。これはマズイ! まじヤバい。
 しばらく経って、またスマホが鳴った。
 「やっぱり駄目なんだよ。1度帰るから」
 「えーっ! 免許取れなくちゃ大変じゃないの。講習の証明書を忘れずに取り返していらっしゃいよ。2,500円の更新代は?」 
 「取られっぱなし」
 「えーっ?!」がめつすぎる。
 トボトボと帰ってきた夫を慰めて、私はすぐさま立ち上がった。眼鏡の度が進んだのか、白内障にでもなったのか。
 仲良しの眼鏡店に電話をかけ、予約し、息子の眼鏡でも世話になった担当者をキープして、夫を連れて出かけた。あーあ、また物入りである。
 夫の目は左右が極度の度違いで、右目は≪牛乳瓶の底≫、左は視力がある。彼は眼鏡をかけていても端正な顔をしている。若い頃は床屋で、「日本一の美男だ」といわれていた。ま、それは置いといて。
 眼科に行って白内障の検査もしてもらったが、あまりひどくはなさそうだ。
 眼鏡店では右目の度が進んでいるといわれたが、不思議に左は近眼の度か弱くなっているのだ。しかも、少しこれまでにはなかった乱視が入ったという。
 技術者の曰く。「これでも完璧ではありません。更新の視力検査では右は合格率5分5分ですね」だって!
 そんな無責任な。
 新調した眼鏡は息子の時はデザイナーズブランドの枠にしたので7万円を越えたが、夫の新調眼鏡は52,000円少しですんだ。
 「都庁以外で通りやすい更新センターはどこですか」と聞くと、Aだという。しかも、そのAセンターの視力検査には男性と女性がいて、男の方が優しいと教えてくれた。よーしっ。こうなりゃこっちも知恵を出す。
 台風21号が来ていて、テレビが盛んに「外出するな」と繰り返していた某日、夫も仕事が休みだったので、私も同伴してAセンターに出かけたのである。
 いつもは受講者が殺到すると見えて、行列用のロープが張り巡らされていたが、この日はガラガラ。どの窓口でも全く待たずにスーイスイと受け付けてもらえた。窓口の人たちもみんなニコニコしていて優しい。ヒマそうである。
 いろんな手続きが済んで、いよいよ視力検査窓口である。
 ははあ、眼鏡店の青年が教えてくれた通りで、右の窓口に男性、左の窓口に女性の係官がいる。よりによって女性が夫の方に手招きして「どうぞ」と誘った。付いていた私は小声で「左はダメよ」といって、知らん顔で男性係官の入り口に入ったのである。ドキドキドキ!
 いよいよ検査が始まった。夫はちゃんと答えられていたが、進むうちに、詰まった。「頑張って」!
 なんと、優しい男性係官はこういったのである。「大きくしますね」って。
 つまり、答えられなかった0.何度かを1ランク上げて、見える段階まで移動してくれたのであった。私は内心、その係官に心の中で手を合わせた。
 「ハイ、午後の3時半に新免許証が出来ますからね」と引き換え書を渡されて解放されたのであった。バンザーイ。
 Aセンターも成功、男性係官の選択も成功。眼鏡屋さんありがとう!
 夫は向こう3年間の運転免許証を手に入れて、2人でニヤニヤしながら帰宅したのである。視力のいい若い人にはこの苦労、わかるめえ。