近頃の雀荘は、ハゲか白髪頭の巣窟である

 

 今年になって初めて仲間と麻雀大会を催した。昔からのアジトが都心にあって、仲間の中の5人が集まった。大学時代からの親友たちで、あと3人仲間はいるのだが、大酒のみだった1人は腰を痛めて外出禁止、別の2人は麻雀ができない。
 12時にアジトに集合したら、10台以上ある雀荘の台のうち、男ばかりのメンバーで2台ふさがっていて、いずれも白髪頭かハゲばかり。つまり高年齢のお客ということである。
 奥の方でけたたましい嬌声が聞こえると思ったら、それは白髪染のオバサンの4人組であった。いずれにしても、雀荘のお客に若いのはいない。
 おかしいのはこのA荘の看板娘たちまでが結構な年配の女性たちである。つまり「元・看板娘」、今、看板オバサンばかりなのである。
 スマホのゲームかSNSのバーチャル画面か、あるいはコミックマニアか、いずれにしてもルールが難しい麻雀などは、若い人たちがやらないと聞かされてから久しい。頭を使わない指先運動のゲームなどどこが面白いのかと私は思うが、本当に雀荘は白髪かハゲに占領されている。
 われわれ仲良し組の5人(女は私だけ)の実力は拮抗していて、勝ったり負けたりだが、この日は元・NHKがバカつきで、独り勝ち。私は±ほとんどなしの2位。3位は世界的な有名数学者の息子の元・電機メーカー社員で少し沈んだ。
 4位はいつもは勝つのに、この日は「バカつき」の反対の「バカ負け」の元・某テレビ局重役。終始一貫マイナスだらけでカリカリして嘆くこと嘆くこと。残る1人は浮いたが、用事があって夕方に帰った。
 久しぶりに遊んで楽しかったが、長時間椅子に座っていたので、足は浮腫むし、エコノミー症候群が起きそうだった。
 私のジャン歴は長いので、思い出が山ほどあるが、一番悔しかったのは、仲良しだと思っていた麻雀仲間にこっぴどく裏切られていた思い出である。
 銀座のOLだった頃から仲良しだったダンディなT君と、彼のつるみ仲間のS君と、彼らの飲み仲間の1人におしゃれな女社長がいて、その4人でよく卓を囲んだ。もう何十年も前のこと、全自動の卓がなかった頃である。
 後から気が付いたのはT君が積み込みをやっていたのである。
 知らない人のために解説すると、麻雀の『積み込み』とは、パイを攪拌して自分の前に2段重ねのパイの列を作る時に、同じ種類のパイを1個ずつ市松模様のように重ねると、配牌時に同じ種類のパイが特定の個人に集まる可能性があるのだ。
 その代わり、サイを振って配牌が決まれば、自分以外の人に同種のパイが集まる危険性もある。だから、「運…天」である。今は全自動卓なので積み込みはできない。
 私たち女2人(女社長と私)も相当な実力だったから、少々積み込みをやられても、それを見破り、いつも負けるということはなかった。
 ところが、である。
 ある年から私はひどく負けるようになった。当時の小遣いはそんなに潤沢でなかったので、レートの高い掛け金(もう、時効です)を支払うのは痛かった。腕が下がったというわけでなし、体調が悪いわけでもなし、変だなあと思った。
 負け続ける麻雀でも、いつも誘われるので応じていた。山手線の巣鴨駅を降りたどこかだったのだが、はっきりした場所は忘れてしまった。
 「変だなあ、これはおかしいぞ」と、ある時、5、6万円も払ってやっと気が付いた。
 私はその日、役満を上がっていたのである。四暗刻(スーアンコー)であった。だから、役満は点棒の儲けの他に全メンバーからご祝儀がウン千円ずつ支払われる約束になっていた。当然、私も3人から万札以上のお金をゲットしているはずだった。しかるに、終わってみれば、私はトータルでマイナスになっていたのだ。
 ???
 「なんで?」「なんで?」。全然わからない。
 なんでトータルで私の儲けがないどころかマイナスになるの?
 私は頭がボーッとして、はてなマークを頭の上につけたまま帰宅した。お人よしというか間抜けというか、私は点数の記録係ではなかったので、鷹揚に構えていた。役満を上がった時以外の成績にイチイチ神経質に気を留めていなかったが、結構スってもいたのである。
 自宅で突然、あるシーンを思い出した。それはゲームの間中、T君とS君がぶつぶつぶつと、意味不明の言葉でやり取りしている場面だった。いつもは何も気に留めなかったのに、この時に突然、違和感が湧いてきたのだ。
 そうだ!
 あれは暗号だ!
 私が役満を上がったずっと以前から、T君とS君のぶつぶつ意味不明のやりとりが激しくなったことが鮮明に思い出された。
 つまり、2人は組んでいたのである。2人が自分の手の内のパイを相手に知らせる。すると一方も手の内の持ちパイを暗号で知らせる。そうすれば、場の捨てパイを除いて、あとの2人、つまり、私と女社長がどんな手でテンパっているかが予想できるわけだ。
 恐らく、私が役満を上がるまではそんなに毎回はしていなかったと思うが、麻雀を金儲けの一手段と考えていたT君は、役満で儲けた私をそのまま帰したくなかったのだ。
 気が付いた日以後、私は彼らとの麻雀をぷっつりと止めた。表向きのジャン仲間ではあったが、私が行かなくなってから、彼らも何故か誘ってこなくなった。私に気づかれたと思ったのだ。それから数十年が過ぎ、時々、ダンディなT君の消息を聞いてはいたが、ある時、彼が、まだ60代の若さで末期ガンで亡くなったことを風の便りに聞いた。
 一時期、私はT君のことを親友の1人と思っていたのに、訃報を聞いて「ざまあみろ」とまで思った。インチキをやっていたから罰が当たったのだと思った。そうまでして仲間を裏切って、金が欲しいか。もう今は何も感じないが、ギャンブルの毒は友情も殺すのである。