第1回 オペラ歌手 紅白対抗歌合戦を聴きに行った

 

 9月6日のサントリー大ホール、「第1回 オペラ歌手 紅白対抗歌合戦~声魂真剣勝負~」を聴いてきた。夕方の6時半から始まって、午後9時20分までの3時間、オペラのアリア三昧を堪能した。観客もいっぱいだった。
 出演は日本を代表するベテランから、若手の歌手まで入り混じって、男声13人、女声13人、指揮者も白組が男性の垣内悠希さんと、紅組が女性の三ツ橋敬子さん、オーケストラが東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団で、ソロあり二重唱あり四重唱ありの色とりどりだった。
 とにかくみんな上手くて明るくて、とても楽しかった。
 私はクラシックマニアであるが、オペラはあまり聴かない。何故なら、忙しすぎて、オペラは好きなのだが、長く時間がかかるから敬遠気味である。N響の会員だから、オーケストラは毎月聴くし、器楽のコンサートにもよく足を運ぶ。
 それでも、昔は大ファンだったテノールのパバロッティさんの舞台に、来日の度に出かけたが、彼が亡くなって以来、がっかりして行かなくなってしまったのだ。だから、今回、久しぶりにアリアをぶっ続けに聴いて、まことに気持ちがよかった。日頃の憂さが吹き飛んだ。
 オペラ歌手はステージマナーも超明るい。白組で最初に登場した樋口達哉さんだったか、インタビューで「足ががくがくしました」とコメントした割には、にこやかで堂々としていた。身体が楽器のオペラ歌手たちは、暗くては楽器が鳴らないのだろう。
 そういえば、毎日新聞の名誉職員である夫が、現役の時、一時期事業部にいて、昔は毎コンと呼ばれていた日本音楽コンクールの担当だったことがある。毎コンには色々と部門があって、日本のクラシック音楽界の1流の演奏家や指導者たちが部門ごとに審査員で加わる。
 その審査員たちの特徴が面白いのである。バイオリン部門の先生方は、気難しい人が多くて、それぞれがテンデンばらばらで、ムツッとしている人もいる。あんまり喋らないのは、いつも耳元で自分の出す音を黙って聴くのに慣れているからか。接待用のお茶菓子はあまり食べない。
 一方、ピアノ部門の先生方は、揃ってスクエア、つまり、超生真面目である。当時は御大の安川加寿子先生がいらしたので、他の先生方は畏まっていたのか、みんな物静かであったという。お茶菓子はそこそこ食べてくれる。みんなお行儀がいいのだそうだ。ピアノは左右対称的に10本の指で弾くから、脳細胞も左右で均整がとれているのかもしれない。人格に影響している?
 しかし、である。声楽部門は全く違う。みんながすごくお喋りで賑やか、明るくてぺちゃくちゃ。何時も喋っている。お茶菓子はアッという間になくなる。性善説、陽気、人生明るく楽しくパッパラパーである。今回の紅白対抗歌合戦が、聴いている観客のわれわれまで楽しくなったのは当然である。
 白組で出場したソプラニスタの岡本知高さんは、いかつい大柄な男性なのだがソプラノの音域で歌う。今回歌ったのはソプラノの定番曲、プッチーニの「蝶々夫人」から『ある晴れた日に』だった。朗々と歌い上げた後で、にこやかに手を振りながら意気揚々と舞台袖に引き上げた。会場全体が大喜び。
 四重唱で登場した男声4人組の中の、彌勒忠史さんはカウンターテナーという高い音域の声で、ヘンデルの宗教曲「リナルド」から『私を泣かせてください』という有名なアリアのソプラノパートを歌った。これまた大柄な男性なのだが、超美しい高い音域で、胸に迫るハーモニーだった。
 つまり、1人ならず2人もが男性なのに紅組の女声で歌うのだ。
 かと思うと、女声二重唱でベッリーニの「カプレーティ家とモンテッキ家」より『共に逃げようそれ以外に道はない』というシェイクスピアのロメオとジュリエットを下敷きにしたアリアを歌った2人はソプラノとメゾソプラノ。だが、男性に扮したメゾの小林由佳さんは、まるで宝塚の男役みたいな真っ白のタキシードに黒のロングブーツ。カッコいいったらない。
 何を言いたいかといえば、宝塚だけでなく、オペラの声域でも扮装でも、男と女が入り混じることはザラであること。歌舞伎界の男ばかりや宝塚の女ばかりが、別段変でいびつなわけではなく、西欧社会のオペラでも男と女は入り混じって歌われてきたことがわかる。
 第11回チャイコフスキー国際音楽コンクールの声楽部門で、初めて優勝した日本人として有名な佐藤美枝子さんは、ドリーヴの「ラクメ」より『鐘の音』という超絶技巧のコロラトゥーラソプラノの難曲を歌ったが、さーすがの実力。人間の声と思えぬくらいの鐘の響きである。
 他にメゾソプラノの永井和子さん、バリトンの黒田博さん、ソプラノのコケティッシュな振りが印象的だった半田美和子さん、テノールの水口聡さんら、みんな素敵であっぱれ! 他の方たちもみーんなあっぱれ!
 最後に会場の観客による紅と白の審査。プログラムが旗のかわりだ。本家の紅白歌合戦でも登場する麻布大学野鳥研究会のメンバーが、会場の旗の数を数えて統計をだした。私は断然白組を推したが、900以上の紅組と700以上の白組で、残念ながら白組の負けだった。
 大勢の出演者で曲も18曲。絶対に時間が押しまくりで最後はぐじゃぐじゃになるのがオチなのに、見事に時間内に収まった。第1回としては大成功である。進行も担った司会者(本田聖嗣)はさぞ大変だったはずだ。
 天候不順で嵐もよいの昨今、この日はピーカンの晴れで、それが何より観客にとっても出演者にとっても有難い1日だったといえる。またやって頂戴。