物議をかもした『新潮45』の休刊と、回復不可能な出版不況

 

 老舗雑誌の『新潮45』(新潮社発行)が休刊した。
 同誌8月号に、自民党の杉田水脈衆議院議員が、LGBTなどの性的少数者は男女のカップルではないので、「子どもを作らない、つまり、生産性がない」などと発言した寄稿を掲載した。
 これに対して批判が起こると。
 さらに10月号では、「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」と擁護する特集を掲載、作家や会社の内部からも批判の声が上がり、1部の書店では新潮社の本の仕入れを見合わせる運動まで起こりかけてきた(9月18日)。
 これはヤバイ、と踏んだのだろう。
 同社社長が自社発行の特集記事について「常軌を逸脱した偏見」とコメント。つまり、身内の行為をやっつけ、あっという間に休刊を決めてしまったのだ。社長は経営者だから、新潮社の全発行物の不買運動でも起きたら大変と考えたのだろうが、大向こうからは、すぐさま休刊というのは、言論弾圧の前例を作ることになると、これまた大批判。どっち向いても批判だらけ。
 新潮社大ピンチ!
 私は杉田氏の論文も読んでいないし、それを擁護したトンデモ評論家の文も読んでいないが、10月号の「そんなにおかしいか・・・」の広告を見た時に、「相変わらずやってるナ」とは思ったが、少し心配でもあった。
 大体、新潮社という会社のメインは文藝出版だが、雑誌別館で作るのは辛口雑誌が多いので、文句や抗議は日常茶飯事だ。
 しかし、社員が優秀で、自分たちの仕事に絶対の自信をもっているから、抗議団体が来たら、「シャッターを締めちゃう」という伝説があるくらいなのだ。
 だけど、今回の事件は余りにも極端で、一過性では終わらないだろうと思ったのである。だって、LGBTと痴漢を一緒くたにするなんて極端過ぎる。
 新聞報道によると、新潮社の前には抗議する人たちがプラカードを掲げて集まっている。「新潮社は恥を知れ」と書いてある写真が出ている。
 その中の元書店員の女性は、「杉田氏や文芸評論家・小川栄太郎氏の文章はヘイトスピーチそのもので許せない。新潮社の本を書店員としてたくさん売ってきただけに、裏切られた気持ちだ。休刊ではなく即刻廃刊すべきではないか」と怒っている(9月26日付、毎日新聞より一部引用)。
 ミーチャンハーチャンではない、ちゃんとしたインテリ女性が怒っているから心配である。笑い飛ばせる段階は過ぎている。
 私もかつて『新潮45』には何度も依頼を受けて雑文を書いた。「郷ひろみさんの元奥様に名誉棄損で訴えられて、東京地検特捜部(!)で取り調べられた顛末」。この時の検事が若き日の若狭勝さん(今は弁護士)だった。
 元の東大総長・加藤一郎さんの娘さんが野党の代議士で、彼女に対する批判記事も書いた。
 今は亡き鎌倉の天皇様、新潮社のご重役だった斎藤十一さんから、直接電話をいただいて「書け!」と命令されて書いた、テレビにおけるお料理番組批判。他にも沢山雑文を掲載していただいた。
 だから、この騒動に全く関係はないが、遠くから心配して見ているのである。余計なお世話かもしれないが。
 そうでなくても出版不況で大変なのだ。
 何が情けないって、わが家の近くから本屋が次々に消えてゆく。
 駅前に一軒残った本屋も、禄でもないマンガ本の洪水である。週刊誌はコンビニで売っているが、週刊誌でも新聞社系のものは置いていない店が多い。
 もっと情けないのは、一流週刊誌の週刊文春と週刊新潮の発売日である木曜日(水曜日の時もある)に、大昔だったら、電車の中で1箱に2、3人の人はこのどちらかの雑誌を手に取って読んでいた。
 今は、見るのも無残。老いも若きも全員がスマホに夢中で、本を手にしている人などいやしない。スマホのゲームってそんなに面白いか。
 私も日頃は忙しいので、単行本を電車に持ち込む余裕はない。だが、両週刊誌ともにご恵贈にあずかっているので、発売日にはいつもバッグに入れて電車の中でも読む。歳のわりに老眼がないので、眼鏡もかけずに夢中で読む。スマホなどという小さなチカチカ画面は嫌いなのである。
 インターネットは自宅のデカいPCで見る。
 出版不況は日本だけでなく世界中で起きている。書籍だけでなく新聞も読まない人間が大量生産されて、末恐ろしくなる。
 「SNSだって活字で書いてるよ」という人がいるかもしれないが、それは違う。スマホやアイパッドやパソコンの中の文章には、用件を伝達する機能はあっても、読み手が感じる書き手の行間に込めた余韻は全く伝わらない。
 ついでに言うと、こうしたツールでのやり取りで、若い人がよく使う「了解です」という言葉がムカつく。「了解しました」でも「了解です」でも、目上に向かって使う言葉ではない。今はなんでも「了解でーーーす」だ。
 大昔、大宅壮一さんがテレビの普及について「一億、総白痴」と喝破した。
 彼が生きていらしたら、ネットだらけの、今の出版物絶滅危惧種状態をなんとおっしゃるだろうか。
 そのうち、紙製の印刷物はマンガを除いて全部なくなり、残っているのはファッション誌と教科書だけになったりして。
 どうでもいいけど。私はとっくにあの世にいるから。