民間放送連盟賞 中国四国地区選考会に行ってきた

 

 いやあ、高知は遠かった。
 ほとんど生まれて初めての高知行きで、ANA機で羽田空港から約1時間半のフライトだが、山の中の高知龍馬空港に着いてから、えんえんバスで数十分走って、やっとホテルに着いた。空港前に吉田茂の銅像が立っていた。
 友人の秀才息子が高知大学の教授をしているので、テレビ局の手配を断って、「いいホテルってどこ?」と聞いてから、自分で飛行機もホテルも予約したのだが、結局はテレビ局が手配した他の審査員のホテルも同じところだった(!)。
 民間放送連盟賞というのは、全国の民間放送局が作った番組の、年に1度のコンクールである。今年、私は中国四国地区の教養部門と報道部門の2部門の選考委員を頼まれた。幹事社のテレビ高知から、6月の初めごろに19本ずつのDVDが送られてきて、連日視聴に努力した。全部で38本である。疲れた。
 内容が重いもので、時間も長い。相当な忍耐力がいる。
 教養部門の最優秀賞にはテレビ愛媛が制作した『じいちゃんの棚田』という47分の作品が選ばれた。上岡満栄さんという72歳の男性が、棚田で米作りをしていて、1999年には「日本の棚田百選」にも選出された美しい「泉谷の棚田」の1つである。だが、ご多分に漏れず後継者不足で、地元の小学校の子供達との交流も、廃校になったりして、棚田自体の維持も難しくなってきている。
 じいちゃんと呼ぶには若すぎる上岡さんには脳性麻痺の息子がいて、施設から時々帰ってくる。春夏秋冬の山奥の農家の人々の、人間の営みが物静かに語られるが、営々と長年個人の力で維持されてきた日本の原風景が、今まさに風前の灯火だということを見ているものに悟らせる。つくづく政治の貧困を思わずにはいられない。
 優秀賞は4本。
 山口放送制作の『会津白虎隊の残影~思いは時を超えて~』
 広島テレビ制作の『いしぶみ わすれない~あなたたちのことを~』
 広島ホームテレビ制作『被爆70年 心の終戦~トルーマン孫の決断』
 山陰中央テレビ制作『軍神からの手紙』
 これらの他にもなかなかいい作品があった。中でも岡山放送が作った『サクラソウの人々』というドキュメントは秀作で、ある不動産屋の女性が、元受刑者や精神障害のある人たちに、部屋貸しをしているのだが、こうした弱い立場の人たちは部屋を借りられないために、住所不定で就職もできない窮状を救っているのだ。ビルを1棟買ってまで店子の面倒を見ている豪快オバちゃんである。
 また、テレビ山口制作の『どうかね すきかね 元気かね~嘉年小最後の1年~』という廃校が決まったたった生徒が2人だけの小学校の1年を追った素晴らしい作品も印象に残った。
 報道部門の最優秀賞には山陽放送の『島の命を見つめて~豊島の看護師・うたさん~』が選ばれた。かつて「産廃の豊島」で有名になった香川県の小島である。小澤詠子(うたこ)さんという36歳の看護師が日々見つめ続ける島のお年寄りたちの生と死である。彼女は大学時代に産廃問題の研究でここへやってきて、900人島民に対して医療機関1つだけという現状を見て一念発起。看護師資格を取り直して、今は連日島の超高齢者の間を走り回っている。
 過疎地の医療というよりは、もはや医療崩壊した地域の先の見えない日常を描くのだが、ここでも政治の貧困を思わないわけにはゆかない。
 他に優秀賞には、
 中国放送制作の『あの日を残す~高校生が作るヒロシマCG~』
 広島テレビ制作の『WATCH 被爆米兵』
 四国放送制作の『託された夢~木頭再生20年の道程~』の3本が選ばれた。
 選に漏れたが私が高評価したものに南海放送制作の『高校生の政治参加は進むのか?~届出制という鎖~』と、瀬戸内海放送制作の『患者は殺人犯になった~香川通り魔殺人 遺族の10年~』があったが内容は省略する。
 2016年にはアメリカ大統領のバラク・オバマ氏も広島を訪れたが、恐らく来年の民放連賞には、多くの被爆70年、終戦70年ものが応募されてくるだろう。
 ところが、先の大戦の経験者は刻々と亡くなりつつある。今年も、入賞作以外に、地域の大空襲の記憶や被爆の体験者の語る場面が数多く映像に残された。
 私も小さかったが疎開組である。田舎の学校でイントネーションが違うと言って「喋ってみろ」といじめられた。疎開先の間借り生活でプライバシーが全くなく、今でも、夢にその頃のトラウマから、見知らぬ人に隣の部屋で家族の会話を聞かれている恐怖の体験が出てくる。70年前の嫌だったことを脳はまだ覚えているのである。
 幸い、身内の戦死はなかったが、母は売り食いのために着物道楽だったのに、錦紗の着物を50枚も食料に替えた。
 しかし、私は物書きのくせに、自分の体験を息子にも1度も話したことがない。なぜなら、到底伝わるまいと諦観に支配されているからである。
 テレビ局が努力して、多くの証言者の記録を作ってくれることは、まことにありがたい。毎年毎年、こうした番組を制作してくれる地方局には最敬礼である。その割にNHKを除くキー局には、戦時ものの作品はないに等しい。バカバラエティばっかりである。
 リオ・オリンピックも近づくが、8月6日も8月9日も8月15日も近い。
 物書きとして当時の生活体験をそろそろ書き残しておこうかと考えている今日この頃である。