歳末の築地場外を歩く

 

 大火事があったので、今年は築地場外での買い物をやめようと思っていた。何年ぶりかで、この歳末の買い出しはアメ横に代えようかとも考えていた。
 ところが、12月のある朝のNHK「おはよう日本」を見ていたら、築地場外からの映像が出ている。結構人が来ている。
 「へーえ、例年通りやっているんだ」
 「じゃ、やっぱり今年も築地に行こうか」
と家族で話し合い、出かけたのである。
 それに加えて、夏にも秋にも、築地場外にある有名な〇〇水産というお店から、「ご来店をお待ちしております」という葉書が来ていたので、ぐらぐらとアメ横より築地の方に頭が引っ張られていた。昨年、高いタラバガニをこの店で北海道から取り寄せてもらったので、記録に残っていたのだろう。
 何度も書いたが、私はつくづく築地が好きなのだ。何しろダンディなオヤジ達が多いから。
 昔、友人の1人だった才女が女社長で、築地で玉子焼きの会社を経営していた。ある年の大晦日には息子さんに背負わせて、山のようにプロが作った美味しい玉子焼きをわが家に持ってきてくれたこともあった。
 しかし、彼女は57歳の若さで、ガンのためこの世を去った。同じく築地の卵やのテリー伊藤さんのこともよく聞かされたものである。
 さて、わが家から築地市場へは地下鉄大江戸線1本で行ける。物凄く便利だ。
 平成12年の大江戸線開通以前は、どこかで日比谷線に乗り換えねばならず、場外まではとても行きにくかった。今は楽チン。
 午前11時ごろに市場に着いたら、もう相当な人出である。聞こえるのは中国語とハングル語、彼らはケバい服装ですぐわかる。また、必ず家族連れで子供が混じっている。
 昼に近いので、まずは腹ごしらえ。朝しっかりと食べてきたのでラーメン屋を捜したが、コテコテの油ギトギトラーメンに閉口して、また性懲りもなく馴染みの寿司屋に入る。左隣の席は大人数の中国(?)韓国(?)系の一団だ。
 凄い食欲で、寿司の後に天ぷらの山盛り、茶碗蒸しを1人ずつ、まだまだ追加して、私たちがちらしを食べ終わっても、まだ何か注文していた。おえーっ。
 そして一方、右隣には30代に見える立派な背広姿の男性が、2人で海苔巻きやお刺身を注文している。仕事中なのかビールも頼まずに「お茶」という。
 なるほど仕事中のはずで、話の内容から、この2人は進学塾の先生らしかった。
 言葉のはしばしに「成績」だの「偏差値」だのが聞こえ、ついでに「麻布中学」だって!
 そういえばここら辺は麻布学園のヒンターランドである。北の方は開成中学受験者が多い。私は横を向いて「家の息子は麻布出身です」と喉まで出かかったがさすがにやめた。そういえば、この時期、受験の追込み期なのだった。
 今回の買い出しはあまり多くない。伊勢志摩の馴染みの会社から大きな伊勢海老を大晦日に取り寄せてあり、カニはやめた。
 塩抜き前の数の子、江戸一の佃煮類、紀文の蒲鉾類と、こればかりは自分で作らない栗きんとん、魚河岸茶のお正月用高級お茶、後は素材だけの丹波の黒豆大玉、生のままの田作り。家の近くの八百屋では買わないセレベスや八つ頭芋と巨大なゆり根。みんな揃った。
 もう午後になるのに押し合いへし合いの超過密ではなく、ほどほどに混んで楽に買い物ができた。火事の後遺症だろうか。少し例年よりは空いている。
 日本人より東南アジア系の人が多く、大谷翔平くんのようにノッポの白人もチラホラ見えた。可笑しかったのは、お店の最前列に横文字で説明書きがあるのだが、英語ばかりかスペイン語、アラビア語(!?)、フランス語、ドイツ語などが並列で書いてある。また、路地の入口付近にEXCHANGE(つまり、両替屋)の看板が出ていたことだ。ほほう、ちょっと見ない間に大国際化だ。
 小池百合子東京都知事がぐずぐずしている間にも、築地は従来通りの活気で頑張っている。プロ用の市場が豊洲に移転したら、この場外もさびれてしまうのではないかと懸念する。
 一通り場外での買い物を済ませて、大通りを交差点に向かう。銀座方面に折れて、またここでも買い足し。持参したお金が乏しくなったので京橋郵便局に飛び込み、ATMから現金を引き出す。残金を見てトホホ。
 歳末の財布の中の現金には大きな羽根が生えている。パタパタとすぐどこかに飛んでっちゃう。お金を銀行からおろしてもおろしても、すぐに無くなる。銀行だけが、手数料で激太りしているのだ。クソっ。ウワバミ銀行め。
 3時過ぎに喫茶店に入って紅茶を頼んだ。このあたりのサラリーマンに見えるお客で一杯だった。
 空は抜けるように真っ青な晴天。日本の冬は美しい。
 年齢と共に、歳末の各行事や大掃除や買い出しが面倒くさくなってはきたが、こうして築地場外まで買い物に来ると、シャキッとする。東京人は年に1度、この空気を吸わないと忘れ物をしたように感じる。
 まだまだ正月用の買い物は足りない。頼んである、のし餅と重ね餅の受け取り。肉類の買い出し。近所の八百屋での箱一杯の野菜の買い足し。西京白味噌。玄関用のお花と部屋べやの輪飾りとゆずり葉やウラジロの買い揃え。
 今年こそは簡素にしてサボろうと思いつつ、大晦日に近づくと何故か血が騒ぐのは、日本人の体に刷り込まれた歳末風景のしからしむるところだろうか。