東京地検特捜部→弁護士→衆議院議員→都知事候補応援隊の3段跳び男

 

 はははは、びっくりだ。
 衆議院議員の若狭勝さんが、小池百合子新東京都知事の応援隊をやって、彼女を圧勝させて以来、テレビでモテモテだ。自信たっぷりに自民党は私を処分できないと鼻高々に語っている。
 実を言うと、若狭さんが東京地検特捜部の検事だった時に、私は彼に呼び出されて、取り調べを受けた経験があるのである。勿論、被疑者として。
 こわいこわーい東京地検特捜部の検事さんに取り調べられたのだ、私は。善良な市民(!)が滅多に経験できるものではない。しかし、物書きにとっては得難い経験なのである。
 15年以上前のことだ。当時、週刊現代が盛んに「嫌われる女」だの「バカ女ベスト5」だのと、メディアに露出するタレントの女性をからかうアンケートの記事を掲載していて、私もよくコメントを求められていた。
 聞いてくる時は、メディアに露出している有名女性について感想を書いてくれという形式なので、一覧表の女性について私なりの感想をちょちょっと書いて返送していた。あくまでもアンケートに対するメモ書きの感想であった。
 ところが、雑誌が発売された後に送ってくれた週刊現代を読むと、あたかも私がコメントで話したように書いてある。私は記者たちに何もしゃべってはいないのに、である。大勢のアンケート回答者の1人に過ぎなかったのに、私だけが取材されて喋ったような形式に書かれているのだ。過激な言葉で。これはヤバイと思い編集部に抗議をしたら、すいませんすいませんと謝るだけである。
 しばらくして、突然、葉書が来た。細部は忘れたが、こともあろうに東京地検特捜部からの呼び出し状で、いついつ何時に地検に出頭せよ書いてある。びっくり仰天だった。名誉棄損の刑事事件で訴えられているというのだ。わたしゃ何にもやってないよ。
 その日、私はパリに出発する日で、とても呼び出しなんかに応じられない。すぐさま葉書に書いてあった電話番号に電話をすると、出た人はムッとしたような口ぶりで、「いつ戻るんですか」と聞く。相手の都合も聞かずにいきなり呼び出しておいて、「行けない」と言うとムッとされるのも、こちらとしてはムカつく。さぁーすが権力だ。不愉快な思いを抱えたままパリに行った。
 帰国してから地検に出頭した。プロセスは省くが、とにかく、検事の前に書記官に連れていかれた。20分も待たされていて、私は内心腹が立っていたが、トンガると逆効果だと思い、ニコニコしながら部屋に入った。そして、「私の東大の同期の女性が、今、静岡家裁の判事をやっていますわ」と言ってやった。事実だったので。その時の検事と書記官の反応がおかしかった。突然、「先生、先生」と私のことを呼び始めたのだ。こっちは被疑者だぞ。
 私が座った席の前には障害物があって、検事が一段上から見下ろしているような配置である。テレビドラマに出てくるフラットな関係は嘘っぱちである。私の前に座っていたのが若き日の若狭勝さんだった。黒々とした髭を生やし、ニコリともしない。
 帰宅してから私の弁護士に「検事さんは髭を生やしていたわ」と言うと、「あ、そいつは若いんだ、若い検事は被疑者に舐められないために大抵髯を生やすんだよ」と教えられた。へーえ。
 若狭検事はこれに住所氏名などを書けと言って紙を差し出したので、私は自分のプライバシーを鉛筆で書いた。いよいよ、訴えられた内容について取り調べが始まった時である。「私は週刊現代にこんなことは喋ってませんよ。大体、コメント電話もいただいていませんし、ただ、大勢の人と一緒にアンケートに答えただけです」と答えたのである。いよいよ爆弾、炸裂だ!
 若狭さんは慌てて立ち上がり、書記官に「民事の書類を取ってくれ」と言うようなことを命じた。つまり、既に、私は民事訴訟で編集部の道連れとして郷ひろみ夫人(当時)から名誉棄損の損害賠償請求はされていたのである。でも、刑事事件の被疑者なんて濡れ衣も甚だしいのだ。なーんにもやっていないのだから。
 民事では、勝手に私のセリフをでっち上げた編集部の道連れにはされたくないので、私は友人の弁護士を立てて分離裁判にしていた。お陰で、弁護士費用の何十万円かを自腹を切ってドブに捨てた格好だ。弁護士は昔からの友人だが、金額をまけてはくれなかった。ケチ。
 それよりも週刊現代さん、あの時の弁護士費用の金返せ。
 大慌ての検事さんに、ついでに私は追い打ちをかけた。
 「ここで書いた私のプライバシーが、外に漏れたら、物書きとしては困ります。貴方が喋ることは許しませんよ」と、私も結構図々しいことを言った。特捜部の検事さんに凄んじゃったのである。
 その時の若狭さんの答えがケッサクだった。
 「大丈夫です。ここ(地検の取調室のこと)に泥棒でも入らない限り、外に漏れることはありませんよ」だって。ユーモアのある御仁である。
 かくして、私は当然、民事事件でも勝訴した。
 二谷友里恵さんには彼女のベストセラーについて、私が批判記事を書いたことがあり、それを根に持っていたらしいということは分かっていた。だが、著作の内容を批判するのは正当な物書きとしての行為である。決して彼女の人格やビヘイビアについて笑いのターゲットにしたわけではない。謂れのない名誉棄損の訴えに、若狭さんたち地検の検事さんが、問題にしなかったのは当然である。いつの間にか小池ブレーンになっていた若狭さん、益々のご活躍を。