木村拓哉が美しい映画、『マスカレード・ホテル』と『七つの会議』

 

 私は偏見の持ち主で、日本映画は基本的に見に行かない。テレビドラマのスピンオフ、例えば『相棒』の劇場版などはたまに見るけれども、普段は洋画専門である。
 若い頃にキャパシティを使い果たしたというぐらい映画館に通ったので、もうノーサンキューである。特に外国でナントカ賞を取ったという日本映画は、大体見てがっかりすることが多いので、見ないようにしている。だから、カンヌのパルムドール賞もパス。アカデミー賞の外国映画賞を取ったものもパス。テレビ放映でちょっと見たくらいだ。
 それがどうした風の吹き回しか、最近、2つも立て続けに日本映画を見に行ったのだ。テレビでの怒涛のような宣伝につられたのも事実だが、『マスカレード・ホテル』は東野圭吾さんの原作ということと、木村拓哉君の近影が見たかったからである。
 木村君といえば、例のSMAP騒動後、下のお嬢ちゃんの話ばっかりで、男盛りなのに彼らしい役柄の作品がない。そこへばっちりとスーツに短髪の予告編が出た。ホイホイと夫を誘ってシネマコンプレックスに見に行ったのだ。
 開口一番、大ホテルの全景が映る。どこかで見たぞと思ったら、2014年のドイツ・アメリカ合作映画、ウェス・アンダーソン脚本、監督の『グランド・ブダペスト・ホテル』に似ている。真似とは言わないが、鈴木雅之監督の頭の中にはきっと『GBH』があったのに違いない。間違っていたらごめんなさい。
 ホテル・コルテシア東京のロビーが広々していて本物らしい。これはセットなのだが、お金をかけて作っているのがよくわかる。一連の殺人事件に関して、近々、このホテルで殺人事件が起こるとの情報で、刑事が潜入捜査に入る。
 ここで、キムタクの登場だ。むさくるしい長髪に口や顎に無精ひげを生やした刑事の新田浩介(木村拓哉)がホテルマンに化けることになる。彼を指導する山岸尚美(長澤まさみ)は長身のフロントクラークで口うるさい。男女揃って美形だ。
 長髪をバッサリと切って新田はフロントマンになるが、つい言葉が刑事調で乱暴になり、「客、お客」などというと、山岸がすかさず「お客様です」と注意をかます。新田はムッとする。この掛け合いは息がよく合っている。
 木村君はやっぱり素敵である。彼を嫌いな人は「デカ面」だの「そんなに背が高くない」だの「何を演じてもキムタク」だのと悪口を言うし、某週刊誌では「嫌いな男優」の1位にもなるが、一種の「可愛さ余って憎さ百倍」の部類だと思う。私は木村君を好きだ。もう少し色黒でなければもっといいのだが。
 「客に逆らうな、ルールは客が作る」というフロントクラークの命令に従ううちに、新田と山岸の間になんとはない連帯感が生まれる。ホテルの客はみんな仮面を纏っている(マスカレード・ホテルの根拠)というセリフがあるように、全員が容疑者に見える中で、2人は最後に思いもよらない犯人に遭遇するのだ(残念ながら私は予想がついてしまい、意外性はなかったが)。ミステリーなのでこれ以上は仁義にもとるので書けない。
 後半の盛り上がりがちょっと物足りない。
 劇伴のワルツが素敵だったが(佐藤直紀)、ハチャトゥリアン作曲の『仮面舞踏会』に似ているのは気になった。
 もう1つの邦画は『七つの会議』である。『半沢直樹』で大当たりした福澤克雄監督作品である。『マスカレード・ホテル』の監督・鈴木雅之さんはフジテレビのディレクーだった人、『七つの会議』はTBSのディレクター・福澤克雄さんの作品と、テレビ局の制作である。つまり、配給は東宝だが、作る方はテレビ局というのが時代をよく象徴している。
 中堅電機メーカー・東京建電の激しい営業実績追及が問われる会議で、いつも「ぐうたら八角」と揶揄されている係長の八角民夫(野村萬斎)は、営業成績抜群の課長・坂戸宜彦(片岡愛之助)をパワハラで訴える。トップセールスマンで北川誠営業部長(香川照之)の覚えめでたかった坂戸が、あっという間に左遷されたことで、八角は裏に巨大な不祥事が隠されていると睨んで調べ始める。
 坂戸の後に営業一課課長になったヘボい原島万二(及川光博)や小心な社長の宮野和広(橋爪功)、その他、親会社や関係会社の面々が、次々に登場する。男臭いドラマだが、最後の最後に「御前会議」と称して、大会社のトップ、徳山郁夫に扮する北大路欣也が、重々しく発言するシーンには、思わず笑いそうになってしまった。時代劇の殿様そっくり。
 こちらは企業物で大人気の池井戸潤さんの原作。力み型の香川照之君や落語家の立川談春さんら、福澤ドラマのご常連ばかりでつまらないと思ったら、主役の野村萬斎さんが、あの、狂言で鍛えたバスの地声で「ニヒヒヒ」と笑う。彼のサラリーマン背広姿は珍しい。
 昔々、NHKテレビ小説の『あぐり』でとっぽい亭主を演じた時の、お笑い系のイメージがこびりついていたので、ニヒルな中年男には驚いた。
 『マスカレード・ホテル』よりいささかつまらなかったのは、前半の脚本が説明調で、登場人物の心の声で説明が加えられるところ。この手法は安易である。後半になって、いよいよ眠りから覚めた(?)八角が真相に向かって鋭く動き出しはじめると俄然面白くなったが。
 ノーベル賞の受賞時に現れなかったりして、変人ぶりを発揮したボブ・ディランによる主題歌とは贅沢な、と思ったが、毎度連ドラの劇伴を作曲している服部隆之さんの今回の音楽は、いささかマンネリで新鮮味がなかった。TBSさん、あまりスタッフやキャストを固定化するのは、観客としてはつまらないです。
 ついでに言えば、年中TBSドラマにでている女優・土屋太鳳にもいい加減で飽きた。
 さて。近頃、現実の社会でも、我が日本はおかしくなっている。もう、どれがどれやら記憶できないくらい、背広姿のオッサンたちが、壁を背にして最敬礼で謝る映像ばかり見せられている気がする。リコール、建築偽装、暴力事件などなど。
 頭にくるのは官僚の数字誤魔化しが発覚しても、民間企業のように真面目に記者会見して謝ろうとしない。いつの間にかウヤムヤである。
 人気作家が描く不祥事隠しよりも、現実の方が遥かに巨悪まみれなのではないかと思ってしまう。小説家、映画作家、ドラマ作家たちが、さらに頑張って悪を暴いてもらいたい。