抱腹絶倒にして怖い映画、『後妻業の女』に喝采!

 

 テレビのドラマ畑で名作秀作を連発してきた元読売テレビの演出家、鶴橋康夫さんが3本目の映画を作った。直木賞作家、黒川博行さんの原作になる「後妻業」で、映画の題名は「後妻業の女」だ。8月27日に東宝系で封切られる。
 鶴橋監督から直筆のお手紙をいただき、この程、東宝の試写室で見せてもらった。私は日本映画はほとんど見ないのだが、長い長いお付き合いの鶴橋さんの3作目とあれば、万難を排しても見に行く。
 これが面白かったのだ!
 ちょっとゾッとして、大いに笑って、クスクス含み笑いしながら帰ってきた。
 濃厚な男と女の愛欲と金銭欲と、中国地方で逮捕された連続夫殺しの事件や、もっと記憶に鮮明なのは北海道出身の木嶋佳苗の事件、これら現実の日本で起きた殺人事件や詐欺事件などを彷彿とさせる、巷の結婚詐欺のような異常事件の物語であった。実際に殺された男も登場する。
 感想を書く前に簡単な筋書きを紹介すると。
 80歳の元女子短大教授・中瀬耕造(津川雅彦)と内縁関係にあった女、武内小夜子(大竹しのぶ)は、耕造がこと切れた後で、葬儀費用の折半の問題で本性を現わす。生前、あまり父親の世話をしなかったために、内心引け目もあるが、小夜子が持ち込んだ耕造の公正証書遺言に仰天した長女の西木尚子(長谷川京子)と次女の中瀬朋美(尾野真千子)は、朋美の元同級生に紹介された、いかがわしい裏社会の探偵(永瀬正敏)を雇って調べ始める。父親の耕造は小夜子に財産をすべて巻き上げられているのではないか。
 何がおかしいといって、小夜子は熟年の婚活を主催する結婚相談所の所長である柏木亨(豊川悦司)と組んで、過去に8人もの寂しい老人たちと関わりのあった女なのであるが、大竹しのぶの7変化の演技によって、化けまくるところの手練手管が最高に面白い。
 婚活パーティーではしとやかなボブカツラを被ったり、純白のドレスを着たり、コケティッシュな流し目を使ったりして、初老の婚活男たちの目を釘付けにするが、地(ぢ)に戻ると下品で育ちの悪さ丸出しのズベ公で、タバコはスパスパ、笑う、怒鳴る、啖呵を切る、ありったけの悪態を大阪弁でまくしたてる。母親業そっちのけの男漁りと金稼ぎに邁進してきたために、息子の岸上博司(風間俊介)もどうしようもない放蕩の悪ガキに育っている。
 大竹しのぶ、畢生の名演技だ。
 探偵が真相に近づき過ぎたために、柏木は追い詰められ、ついに探偵・本多を博司に殺させようとする。しかし、悪ガキの博司はチャカ(拳銃)で探偵の足だけ撃って失敗する。ここからが、また大爆笑。
 探偵は拳銃あとを医者にも見せられず、顔見知りの獣医(柄本明)のところに「2本足(笑)の患者です」と転がり込む。獣医になる柄本がまたおかしくて、高い金を要求するくせに、痛み止めや化膿止めの薬は「動物用」だって。
 あまり詳しく書くと見る人の妨げになるので、あとちょっとだけ。
 私が感心したのは脚本(鶴橋康夫)のディテールの才ばしり方。例えば、「私立探偵」を見下されて、「公立の探偵は、刑事や」と応酬するくだり。焼き肉店で次女の朋美と小夜子が取っ組み合いの喧嘩をする場面での演出。大勢のエキストラが焼き肉店の客として食べている中で始まった壮絶な女同士の肉弾戦。
 その最中に、デブの焼き肉店の女が、画面を前掛けをかけた姿で横切るのだ。シリアスな女同士の殴り合いの画面に、ひたすら客用の皿をもって行ったり来たりする店員の描き方は、こうした庶民階級の食い物屋のシーンに喧嘩口論は付きもの、というメッセージにも思えて感心したのであった。
 私には1文の得にもならないが、この作品は面白いと鑑賞をお勧めする。
 さて、鶴橋さんとは長いお付き合いである。勿論、私は制作側の人間ではないので、仕事上でお会いしたことはない。大昔、彼がどこの誰べえとも知らなかった頃に、彼の作品に引き付けられて批評を書いた。鶴橋康夫、35歳の若かりし頃である。
 以後、見る作品見る作品、私は楽しんで見た。期待外れは1度もなかった。
 読売テレビで脚本のコンクールがあった時には、審査員の1人として呼んでいただいた。何時お会いしても野球帽に濃いサングラスが定番で、俳優たちよりカッコよかった。大病なさったと聞いたので、今年の年賀状が未着なのを心配していたら、撮影中だったのだ。よかったよかった。
 加えて作品の出来もよいので、なお安心した。
 10年以上も前に、私の愚息が結婚した時、彼はテレビドラマの大作を赤城山かどこかで撮影中にもかかわらず、時間をやりくりして式場まで駆けつけてくれた。それに、主賓の1人として祝賀挨拶までしてくださった。
 如何にも、大勢の鶴橋組のボスとして若い人たちを仕切っている大監督らしく、祝辞が傑作だった。
 息子に向かって、「金がなくなったら借りにおいで。20万までならいつでも貸すからね」だって。しゃっちょこばった結婚式の客たちがこれで大爆笑だった。
 東宝が力を入れて宣伝している。封切以前の試写の回数も多いし、この前、どこかの情報番組に主演の大竹しのぶさんが生出演してPRしていた。豊川悦司さんが、役柄が役柄なので、赤黒いテカテカした顔のアップで、結構なワルの結婚相談所所長を演じて迫力があった。少し歳を取ったナ。
 尾野真千子さんは黒崎博くんの演出で数々の賞に輝いたNHK広島制作のドラマ「火の魚」以来、私は贔屓にしている女優さんの1人である。