出来合い『おせち』のキンキラキン

 

 9月ごろから並ぶデパートの豪華なお節料理の見本を、私は長く敬して遠ざけて、素通りしてきた。出来合いのお節料理なんてと軽蔑していたからである。
 いつ作ったかわからないような出来合いおせちなんて、食べるのが気持ち悪かった。そうでなくとも国中が忙しく慌ただしい時に、1軒1軒のお節に料理人の神経が行き届くはずはなく、どうせ、駅で売っている弁当よりもひどい状態で作られているに違いないと偏見をもっていたのである。
 しかも、ある年にテレビのドキュメントを見てしまった。
 高級料亭の80,000円もする豪華「おせち」を作る過程の放送をしていて、たまげたことに、暮れの8日前(つまり、クリスマスより前)から正月用のおせちを作り始めると解説していたのだ。これはいい意味で時間をかけていると制作者は自慢していたのだろうが、見ている私は、「うわあ、そんな前のものをお正月に食べさせられるの?」と吐きそうになった。
 結局、出来合いお節の敬遠は続いた。
 子供の頃から、料理上手で独楽鼠のようによく働き、何でも器用な実家の母を見て育った。母は、お節料理も100%手作りしていて、材料の乏しい時代だったにもかかわらず、お煮しめは勿論、黒豆、田作り、なます、などを全部、節季の3日間で手作りした。
 だから、見よう見まねでお節の作り方や時間の配分も覚え、自分が一家の主婦業を司ることになって以来、毎年母と同じようにお節料理は手作りしてきた。
 一昨年まではそうだった。
 1度書いたような気もするが、ホテルのお正月プランで宿泊した年に、年越しが楽チンだったので、昨年、その流れで某ホテルのお節料理というのを初めて申し込んでみたのである。
 結構な値段のお節で、見かけはキンキラキンの美しい詰め合わせだった。
 12月の31日にホテルまで取りに行き、豪華な保冷袋に入れられたお重を代金と引き換えに受け取って帰った。
 ところが、帰ってからよくよく見ると、1月1日が消費期限と書いてある。
 「!」
 大晦日に受け取って、お正月元日に「食っちゃえ!」ということなのだ。
 そんな馬鹿な。
 そもそも、お節料理というものは、年がら年中台所で家族のために立ち働いて、1日も休む時のない主婦をねぎらうために、考え出されたものだ。
 濃い味付けでお煮しめや昆布巻きを煮て、お正月の三が日には主婦に休んでもらおうという心配り、思いやりである。
 しかるに、ホテルのキンキラキンお節は「元日に食っちゃえ」で、消費期限が1月1日ならば、2日からまたまた主婦は台所でオサンドンだ!
 随分バカにした消費期限である。つまり、実情を推理すると、大晦日に受け取ったおせちのお重は、それから3日4日以前に作られたもので、冷蔵庫で保存しても「1日までしか鮮度は保証しませんよ」ということなのだ。
何が三が日の休養だ。
 だから、お高い既製品のキンキラキンお節を購入しても、主婦はいつもと変わらずに1月2日から台所に立ってお料理を作らねばならない。
 ならば別途にお金がいる「おせち」なんて申し込むのは無駄である。
 今年も出来合い「おせち」はやーめた。
 昔と違って近頃は新年の休みが短い。
 初荷だけでなく、コンビニやスーパーも季節感がなくなり、お正月から営業している。材料の買い溜めをして新年の1週間ほどもたせる必要がなくなった。
 亡母は松の内に買い物に行くのは主婦の恥だと言っていた。計算をして、9日10日ぐらいまで食材が足りるようにマネージするのが女の才覚だと当時は考えられていたのだ。
 不便な田舎ならともかく、わが家のあたりはあっという間に新年も普段通りになり、平気で2日のスーパーに主婦たちが買い出しに行っている。
 情緒が無くなった。
 日本らしいお正月風景が消滅しつつあって情けない。
 穿って考えると、出来合い「おせち」の消費期限が1月1日ということは、2日から平日並みに働けと言われているようなものだ。
 私はお正月はお正月らしく、松の内ぐらい買い物にも出かけずに頑張るつもりだ。然りしこうして、出来合い「キンキラキンお節」はやめたのだ。
 パリのお正月みたいに日本もなるのか。
 パリでは学校も会社も元日だけ休みで、2日から平常通りだ。クリスマスに大型休暇があるキリスト教圏では、新年は何ほどのこともない。お店も普段通り。
 だから、年越しだけは絶対に日本がいいとわが留学経験のある家族も言う。日本的な新年が失われつつあるのはまことに残念である。

 某デパートの「おせち」のパンフレットに、限定20セット、2段重で147,960円という目玉が飛び出すお料理屋さんのお節が載っている。海鮮の高級素材が詰め合わされていて、見るからに美味しそうだ。それでも消費期限は1月1日。
 「美味しいわねえ、高いわねえ、トホホホ」と言いながら、家族全員で元日に目を白黒させながら、これらを全部食べるのか!
 おーい、元日早々、救急車のお世話にならないようにね。