パリ同時テロから1年、日本も他人事でない

 

 平成12年12月12日の大ゾロ目の日に地下鉄大江戸線が開通した時、時の都知事だった石原慎太郎さんが、「名前は大江戸線でいいじゃないか」と言ったことを妙に覚えている。
 わが家からこの線が近いので、当時は六本木や麻布十番方面に行くのが便利になると喜んだものだが、近頃はなるべく乗るのをやめている。
 何故なら、地下鉄の中で大江戸線が1番深いところを走っているからである。
 大地震になったらどうしよう。テロが起きたらどうしよう。
 水が出たら生きていられない。逃げるところがない。
 エスカレーターやエレベーターが停電で止まったら、私は絶対にパニクる自信がある。やっぱり、なるべく乗るのを減らそうと考える。
 大江戸線の駅の中で一番深いと聞く六本木駅は、地上に出るまでに時間がかかる。あの途中でエスカレーターが止まったらお陀仏だ。
 青山一丁目駅で大江戸線から銀座線に乗り換える時、私は呪いながら歩く。どこのどいつがこんなバカな設計にしやがったんだと腹が立つ。パリの地下鉄はもっと頭のいい奴が設計している。乗り換え路線が多い駅でも、何となく自然に目的路線に乗り換えられるように設計されている。ところが東京の地下鉄は建て増しを繰り返したビルのように、継ぎ足し継ぎ足しの欠陥があちこちに見られるので、非常にわかりにくい。半世紀以上も東京の中心部で根が生えたように住んでいる私でさえも、時々乗り換えでは迷うことがある。だから、怖いのである、停電や事故や火災やテロリズムが。
 繰り返す。
 首都直下型地震やテロが起きたら、東京の地下鉄では目も当てられない大惨事になること間違いなしだ。
 こんなことを近頃常に考えるようになったのは、パリの同時テロから一周忌だからだ。昨年11月13日の、ISによるパリのコンサートホールやカフェでの無差別殺人テロ。友人のフランス人の従兄弟が、あのコンサートホールで九死に一生を得たことはすでに書いた。130人死亡、負傷者350人。
 以下、今年1月12日、トルコ・イスタンブールで起きた自爆テロではドイツ人観光客が10人死亡。1月14日、インドネシア・ジャカルタ。3月16日、ナイジェリア・マイドゥグリ。3月22日、ベルギー・ブリュッセル。4月19日、アフガニスタン・カブール。6月12日、アメリカ・フロリダ州のオーランド。6月28日、トルコ・イスタンブール。同じ日、マレーシア・クアラルンプール。7月1日、バングラデシュ・ダッカ。7月3日、イラク・バグダッド。7月14日、フランス・ニース。7月18日、ドイツ・ビュルグブルク。7月24日、ドイツ・アンスバッハ。7月26日、フランス・ルーアン。8月8日、パキスタン・クエッタ。8月11日12日、タイ・フアヒン。8月21日、ソマリア・ガルガイヨ。8月29日、イエメン・アデン。9月2日、フィリピン・ダバオ。9月17日、アメリカ・ニュージャージー州のニューヨークと、21件もテロが起きた。
 これを見て、日本で起きないと言えようか。
 戦前のクーデターなどを除くと、日本の現代史において最も大きなテロは1990年代のオウム真理教サイバーテロである。あれも、異形の面を被った候補者が宣伝カーに乗って選挙に出ていて、初めはマンガチックなおかしい人たちとは見られたが、決してテロ集団とは捉えられていなかった。公安以外は。
 それが実は世にも恐ろしい猛毒のサリンを作っていた。事件後、そう遠くない駅前にある彼らのアジトから、慶応大学医学部卒の死刑囚が、殺した遺体を入れた棺桶を2階から外におろした汚い家を、偶然前を通りかかって気が付いてゾッとしたものである。つまり、身近な事件だったのだ。
 今、銀座や新宿やあらゆる東京の繁華街を歩いてみなさい。大声で下品にしゃべっているのは他国の言語である。外国人を差別するのでは決してないが、東洋人の中に、例えばオウム事件でテロを起こしたような、インテリ・テロリストが混じっていないと断言できようか。アラブ系の人たちばかりが疎外されているが、普通の東洋人の中に、凶悪なテロリストが生まれていないと誰が断言できるのか。
 秋葉原事件や類似の凶悪事件は、夜をすねたおかしい人が起こした無差別殺人だが、確信犯の自爆テロリストたちも普通人の顔をしてその辺を歩いている。回り中が海のわが国には入国自体が難しいと思われているが、ヨーロッパのテロリストでよく報道されるのは、長く地元民として住んでいた人が、ISと接触してかぶれて帰ってきて、黙々とテロリストになるケースが多い。日本でこういう人が育っていないと断言できるか。
 20年位前、東電柏崎原発を見学した時に、陸側の警護は空港並みに厳しかったが、海側は何にもやっていなかった。甘すぎると呆れた。北朝鮮に拉致された人たちは、海から簡単に上陸してきた男たちに連れ去られた。これが拉致でなくて、テロリスト自身の上陸だと考えると恐ろしい。お茶の子サイサイでわが国には入ってこられるのだ。
 オウム真理教事件から20年も経って、この事件自体風化しつつある。今の大学1、2年生でどれだけ正確に知っているか心もとない。東京の地下鉄が1995年3月20日にならないと、誰が保証できるか。破壊兵器の進化によって、大江戸線の地下遥か下のホームでテロが起きないとは言えない。
 私は、だから、ほとんどの外出時、JRの地上の電車に乗る。平和ボケの日本人が、1人1人自分の身を守る鍛錬をするべきだと私は常に心配している。