ザ・グレイト・コメット・オブ・1812とは何だ?

 

 お正月の2日からコラムの締め切りで、テレビで箱根駅伝を見ながら、朝から晩まで原稿書きだった。例年元日にやってくる息子一家が外国旅行に行っていたので、我が家の正月客は5日までなし。その代わり、仕事仕事である。
 元日の午後には例年通り、神田明神に初詣に行き、おみくじを引いたら「末吉」だった。去年は大吉だったのに大幸運ということもなく、さして悪いこともなく、家族は全員がまあまあ健康に過ごせた。末吉の今年はどうなるのか。
 2日と3日はお昼過ぎまで箱根駅伝の生中継テレビに噛り付いていた。元日と2日に書いて送った駅伝の記事が、素早く3日の朝に公開されたので、見届ける必要もあったのだ。
 箱根駅伝は、昔昔、ちょっと関係があった山梨学院大学が、ズドーンとビリチームに落ちてしまったので、近頃はどの大学も贔屓にしていない。
 ただ、連続4回も優勝した青山学院大学の監督さんが、エラソーにテレビで評論家面のコメントをするので、今年は負けてほしいと思っていたら、やっぱり負けた。
 友人のお嬢様が専任講師をやっている東洋大学が、往路優勝したので復路もと願ったが、残念ながら3位に落ちてしまった。ほんとに駅伝という10区もある競技は勝つのが難しい。
 例えば、昔の山梨学院大学では、アフリカ系の留学生が2区などでゴボウ抜きをしても、その後の区間で追い越されて元の木阿弥ということがよくあった。
 だから、10人の選手を均等にトップランナーで揃えることは至難の業である。それ故に、駅伝という競技の醍醐味も湧いてくるのだ。
 さて、7日になって、今年初めて仕事取材もかねてミュージカルのステージを見に行った。タイトルは『ナターシャ、ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』という、1度見ただけでは覚えられない意味不明題名の作品である。
 製作は東宝とニッポン放送とミックスゾーン。主演は井上芳雄である。
 チケットを買ったのは昨年だったので、うっかり忘れるところで、当日の昼近くなってその日のスケジュールを見て仰天。わが家から比較的近いホールに駆けつけたのであった。13,000円もしたチケットを無駄にするところであった。
 私はよくこういうことをやらかす。以前、ゲルギエフ指揮のドレスデン響のチケットを、何万円も出して買ったのに、思い出したのが公演の翌日ということもあった。日常が忙し過ぎて、ポカっと忘れることがあるのである。認知症ではありませーん。
 ホールに入ると最初に目を引いたのがステージの変わった造りである。客席の方を向いた普通の平らな舞台ではなく、コの字やロの字の廊下が組み合わさったような形で、その間のボックスにオケや客席が混じっているのである。
 ステージに向かって左側の階段の脇で、何やら荷物検査がされているように見える。つまり、演じる俳優たちの足元のオケボックス風の客席に入る人たちから、万一演者に物でも投げつけられたら大変なので、バッグの中身を調べているのだ。
 私の席は普通のS席だったので、荷物検査はなし。新劇の舞台で、ステージが真ん中で、右と左に客席があるステージは見たことがあるが、ロの字のオケピットは初めて見た。
 チケットもぎりの時に、他公演のチラシと共に、このミュージカルの「人物相関図」という紙を渡された。インターネットでドラマについて調べると、「人物相関図」というのがよく出てくるが、あれ、である。家に帰ってこのミュージカルのHPを見たら、渡された相関図がそっくりそのまま出てきた。
 2,200円もする公演パンフレットを全員が買うわけではないので、ややこしい劇の人物たちの性格や関係を書いてあるのだった。これは親切である。
 2012年にオフ・ブロードウェイで生まれ、2016年にブロードウェイに進出したヒット作、2017年のトニー賞では12部門でノミネートされたという話題作である。
 話の内容はかの『戦争と平和』から取ったもので、『戦争と平和』の全編歌版である。
 主人公は結婚に失敗した金持ちだがデカダンなピエール(井上芳雄)。眼鏡をかけて背中を丸め本ばかり読んでいる変人だ。貴族の私生児として生まれ、結婚にも失敗し、虚しさを抱えて酒におぼれる毎日だ。井上の歌唱は素晴らしいが、童顔なのでワルにはなれず、決闘シーンもいまいち迫力不足である。
 ピエールと親しい伯爵令嬢のナターシャ(生田絵梨花)はアンドレイ(武田真治)という婚約者がありながら、美しい快楽主義者のアナトールに恋をして、結局、両者ともに失う。
 1人の悪女が素晴らしかった。ピエールの金目当てに結婚した妻のエレン(霧矢大夢)役、元宝塚のトップである。男役だっただけにスケールが大きな社交界の花形を派手に演じる。
 生田絵梨花は乃木坂46のアイドルだそうだが、ミュージカルの舞台づいている。私はこの種のアイドル業界に最も疎いので、今まで1度も彼女のソロを聴いたことがなかった。
 立ち姿は楚々として可憐だが、歌は格別うまいとは思わなかった。団体で活動するアイドルらしく没個性の典型で、「これが主役か?」と物足りなかった。演出家(小林香)の責任でもあるだろう。
 1番驚いたのは武田真治。あのテレビドラマで活躍していた武田真治が、舞台俳優で、こともあろうにミュージカル俳優やサックス奏者だって。全然ぴんと来ない。暮れの紅白にも出ていたらしい。歌はあんまりうまくないが、元ジュノンボーイだけあって、立ち姿は綺麗だった。
 さて、総括。それぞれにチロル風のビラビラ衣装を着たその他大勢が賑やかで、特筆すべきは音楽である。ロシア民謡のようなモール(短調)で口当たりのいいメロディが多い。キャッチフレーズではロックとかエレクトロニックとか前衛的なことが書いてあったが、全く違う。むしろロシア的伝統的、メローディアスな曲調が、わかりやすい。
 井上芳雄のファン(?)のオバサンたちが、私の周りで手拍子に余念がない。劇団四季の客層とは異なっていて、ハテ、彼女たちはどういう人たちなのかと疑問に思った。
 劇的感動とは程遠かったが、極彩色の衣装が目の保養にはなった。