コミックでもあり得ない劇的場面連続の日本シリーズを堪能した

 

 私はゴリゴリの阪神ファンなので、今年のプロ野球CSも日本シリーズも、多分つまらないだろうと冷ややかに見ていた。だから、第1戦と第2戦で日本ハムが広島に情けない負け方をしても、大して気にしなかった。試合も途中から追うのを止めてしまったくらいだし。ただ、阪神時代に大ファンだった新井貴浩選手が、怪我の所為かヤジの所為か、阪神タイガースでは期待を裏切りまくっていたのに、広島に帰ってからはポンポンと打って頭に来ていたので、広島だけは応援しないぞと決めていた。日ハムが2連敗したので、2戦目が終わっても観戦熱は冷めていたわけだ。
 ところが、である。札幌に帰ってから、大谷翔平君は、「3連勝して広島に行き日本一になります」というようなことをケロッと可愛い顔で言うので、あれれ、案外めげていないなと見直した。それで第3戦からはじっくりと見ることにしたのである。ホント見てよかった。大感激の素晴らしい試合だった。特に第5戦からは、マンガや小説で書かれても「嘘をつけーっ」と言われそうな、奇想天外、劇的場面があり、最終戦まで熱狂したのである。サッカーでは、こんな奇跡みたいな大量得点は起こり得ないから、やっぱり野球は面白いのだ。
 10月30日の日刊スポーツ新聞に、この新聞専属の野球評論家、宮本慎也さんが書いた批評文が載っている。タイトルは「失策、無駄な四球、寂しさ感じた締まりのない日本シリーズ」とある。要するに広島が負けたうっぷんで、試合自体をクソみそにやっつけているのである。例えば、第6戦での負け投手・ジャクソンについて、『ベンチが試合をあきらめたジャクソン続投』などと緒方監督の采配にブチ切れているのだ。
 私に言わせれば、宮本さんは元ヤクルトなのでセ・リーグの覇者・広島カープに肩入れしていたのに、負けたから腹立ちまぎれに文句を言っているに過ぎない。私は素人だが、昭和30年代、「神様仏様稲尾様」の時代からプロ野球ファンをやっている年季ものなので、いささか詳しいし見る眼力もあると自負している。西武ライオンズの黄金時代には、秋山幸二のホームラン・バック転も目撃した筋金入りだ。今年の日本シリーズが「締まりのない日本シリーズ」だったなんて絶対に思わない。むしろ稀に見る面白いシリーズであったと思う。
 TBSの「喝」のオジサン、張本さんもゲストの里崎さんも「面白かった」と言っていた。宮本さんはバツだ。
 劇的場面の例を挙げると。もちろん第5戦の9回裏である。日ハムが広島に四苦八苦して7回にようやく1対1の同点になったところ、同点のままで9回の裏がやってきた。日ハムはヒットのランナーは出ているが既に2アウト。1番の岡大海選手がデッドボールを背中に受けて、2アウト満塁になった。次のバッターは2番なのにシリーズの成績は芳しくなく、確か20打数の2安打しか打てていなかった西川遥輝選手である。まだ子供ちゃんみたいな顔をしている。広島の投手は抑えのエース、中嶋選手である。
 「あーあ、西川のこんな打率じゃ延長戦だわね。ここで彼が内野安打でもいいから1本ヒット打ってくれたら終りになるんだけれど・・・」と7回までのビハインドに疲れ果てて、無いものねだりの甘い空想をしていた。一緒に見ていた夫には、「劇画だったら、ここでポカーンと貧打男が打つんだけどね」とブツブツ言った。その瞬間、西川への第1球はボールである。
 「押し出しでもいいよ~~」とドキドキしながら、内心はダメに決まってる、と諦めの境地でふてくされていた。その時、西川のバットが一閃した。
 球場が「わーっ」と鳴った。それでも私は球がスタンドの前で失速すると思っていた。そんなドラマみたいなこと起きるはずがないと考えたからだ。
 「えーっ?!」
 「入ったんだよ、グランドスラムだよ」と夫。
 「えーっ、ウッソー。満塁ホームランのサヨナラ?!」
 ぎゃはははは。夫と私は顔を見合わせて、2人そろって「ドラマでもやりすぎって言われるー」とテーブルを叩いて絶叫したのであった。
 5対1で日本ハムの勝ちだった。
 もう1つの例は、第6戦の8回表だ。ジャクソンが満塁で中田選手に4ボールをだし、4対4の同点だったところから、押し出しで日ハムが1点先行した。5対4。ピッチャーはお髭のジャクソン君。彼は第4試合で失敗している。
 中田君が打席にいる時に、ネックストバッターズ・サークルには長身の大谷翔平君が出てきた。ジャクソンの投げる視線の先に、大谷選手がウロチョロしたら、そりゃあピッチャーは気になるわナ。
 ところが、実際のバッターは途中で出てきた救援投手のバースなので、バースに替えて大谷君に打たせるのかと思ったら、さにあらず。これはフェイクだった。栗山監督もやるじゃん。1点先行したからこれでいいと思ったのか、投手のバースにそのまま打たせた。これがまたまたの大当たり。また1点追加だ。
 宮本さんが「諦めた」とけなしたところで、この後、レアードの、またまたグランドスラムが出たのである。ウッソー。マンガ以上だ。出来過ぎだ。ジャクソンを続投させたのは、私の見るところ、試合をあきらめたのではなく、それほど過去に緒方監督は彼を買っていたからだろう。続投で失敗してどこが悪い。
 今回の日本シリーズに失投やフォアボールが多かったのは確かだが、それほど若い人たちにとって緊張をもたらす日本シリーズという舞台の特別さこそが素晴らしいのだ。ここに出るために1年間皆で努力する。「つまらぬシリーズ」だなんて私は絶対に思わなかった。選手はまだ若者たちである。プロといえどもガチガチになるのだ。広島カープも日本ハムも選手はみんなよくやった!