イギリス人は自分の国が地球の中心だと思わないと気が済まない

 

 1度どこかに書いたが、ロンドンで知人がホテルから出かけようとして、金モール君に、「ここはどこですか(つまり、街の名前)」と聞いたところ、ホテルマンはにこやかに答えた。
 「あなたはラッキーだ。ここは地球(世界)の中心だ!」
 イギリス風のユーモアではあるが、事実、イギリス人は自分の国が世界中の中で1番偉大で、万事が自国を中心に回っていると思っている。彼らに「黄昏の大英帝国」などという概念は全くない。
 しかし、私はイギリスという国をあまり好きではない。大体アングロサクソン系の人たちはダサくて、もっさりしているからだ。ロンドンは食べ物もまずいし、庶民が立ち寄る街のパブの方がまだましで、レストランに入ると入った途端に後悔することになる。ロンドンの中華食堂の不味くて高いこと!
 パリのエッフェル塔のエレベーターで観察していると、各国の観光客が集団で出入りするが、洋服のセンスの悪いのは大体がアングロサクソン系である。イギリス人、アメリカ人。勿論、その国の中での知的格差や経済的格差による差はあるが。ドイツ人も余りセンスはよくない。ラテン系(フランスやイタリア)は芸術的センスがあり、みんなオシャレだ。喋っている言葉でどの国かわかる。
 食べ物にしても、フランスとイギリスではユーロスターで直行出来るのに、まるで違う。例えばパン。パリでは食パンがない。バケット、クロワッサン、甘いジャムが付いた菓子パンなどがほとんどで、四角い食パンは全く売ってない。
 ところが、ロンドンのホテルに泊まると、朝食バイキングにでてくるのは薄切りにした食パンで、ちゃんと日本のようにトースターが置いてある。そういえば、天井を押えて焼いた四角い食パンではなく、てっぺんが膨らまし放題に山ができているパンのことを日本ではイギリスパンという。でも、ロンドンのホテルに出てくる食パンにイギリスパンはあまり多くない。
 何を言いたいかというと、イギリスとフランスは丸っきり文化が違うということだ。ユーロスターで港町のカレーに着くと、今は知らないが、私が行った頃は、列車内のアナウンスがフランス語から英語になったので、ハハンと思った。
 今回のイギリスがEUを離脱すると決まった投票結果で、世界中が蜂の巣をつついたような大騒ぎをしているが、ある意味、予想されたことでもあったと私は思う。
 なぜなら、かつての大英帝国の幻影に取りつかれている高齢者たちは、大陸の2大国、ドイツとフランスに牛耳られるEUにいるよりは、孤高の大英帝国として、1人独立独歩の道を歩きたいと内心思ってきたはずなのである。若い人は生まれた時からEUの一員としての意識しかないので残留派だ。
 時代が激変したことに気づいていないのも、いかにも英国保守層らしい。ロンドンなど都会のインテリは時代の趨勢で、EU離脱後の「何が起きるかわからない不安」を感じていただろうが、低い階層の「昔はよかった」派は、ただ盲目的にイギリスのEUからの独立(?)ばかりが頭にある。
 どの国にも「昔はよかった」派はいるもので、かつて、私はパリの街中で知り合った小柄なフランスオバちゃんからとんでもないことを話された。私が日本人だと知って「羨ましい」という。
 「なんで」と聞き返すと、「日本には皇室があるから」という。しかも、彼女は皇室と王室とがぐちゃぐちゃになっていて、要するにフランス国はフランス革命で王様や妃の首をギロチンにかけ、共和制にしたのが大間違いで、国に品格も威厳もなくなったと嘆いているのである。いつのこっちゃ。
 エリゼー宮の選挙で選ばれた大統領より、連綿と続く血の王室の方が価値があり、ずっとよかったと彼女は思っているのだ。
 18世紀のフランス革命でなくなった王室が今あればと嘆いているわけで、3世紀も昔のことをいまだに後悔している、ウルトラ保守オバちゃんが大陸側にもいるのだ。王室を戴いているイギリスの対極にあるフランス側でもこうだから、ましてや島国の一匹狼たる英国では、大陸の連合体なんか「知らんけー」と思っているのだろう。
 今回の離脱派勝利で私が1番面白かったのは、ブリュッセルでのEU首脳会議で、イギリスの代表に対して、メンバーの1人が「あんた、なんでそこにいるの?」と皮肉ったこと。メルケル独逸首相が「いいとこどりは許さない」と釘を刺したこと。
 最初はショックを受けてうろたえても、事実を冷厳に受け止めた後は、「どうぞどうぞ、さっさと出て行っておくれ」と冷たくなる。情に流されたりはしないところが東洋人の我々と違う欧州流の合理主義だ。
 私は経済の専門家でも何でもないので、市場のことはよくわからないが、EU離脱後のイギリス(食べ物はまずく、碌な観光地もない国)にはますます行きたくなくなる。彼の地の王室にも関心がないし、せいぜいミュージカルやシェイクスピアの舞台に魅力がある程度だ。超美男のロバート・テイラーと、ヴィヴィアン・リーが主演した映画の原題「ウォータロー・ブリッジ」(邦題・哀愁)のように、かつてのイギリスは文化的に先進国だったが、今はどうか。
 素人の私のただ単なる勘に過ぎないが、EUを離れることによって、離脱派が問題にした移民や難民のことが改善されるとも全く思えない。世界中のマーケットを振り回して、「大山鳴動して鼠一匹」になるかもしれないと思う。離脱によって失うものの方が断然多い。
 この国民投票は稀代の失敗だったわね。