”やすらぎの郷”と倉本聰さん(賛)

 

 いやあ、いいところに目を付けたな、テレビ朝日と倉本聰さん。
 年寄りがターゲットの連続ドラマなんて。
 勤めに出かけないじじばばが、お昼ご飯の後で、お茶を飲み飲み見るだろうとの計算がまんまと当たって、いよいよ後1か月の放映となった昼の帯ドラ。大御所様に批評などとは畏れ多くて書けないけれど、「よくぞ書いてくれました」との思いもあるので、ここらあたりで素朴な感想を。
 私の友人で元ラジオマンのA氏が、「近頃のテレビは見るものがないんだよね。”やすらぎの郷”っていうのだけ時々見てんだ」といっていた。しかし、高齢者といえども、真っ昼間の時間帯の放映は連日視聴するには困難があるらしい。
 私も商売柄連日見なければならないのだが、努力しないといけない。
 録画はオビ番組の場合、外出予定が入れば録画することになるのだが、録画を取っておいて、後になって、ハテ、これはどの話の続きだっけ?と再生の時にアタフタすることもある。
 4月にスタートした頃、戦友という元テレビマンと、主人公の菊村栄(石坂浩二)が今のテレビについて批判するシーンがあって、長くてストレートな言葉遣いだったので少し引いた。この調子だと生々しすぎるぞ、と思っていたら、そこは流石の倉本さん、以後は登場人物たちの酒の場でチラチラ出てくるようになった。
 最近では、逆に初期の頃の失敗談を語り、それがたくまずして「テレビが若かった頃へのノスタルジー」となり、現状への皮肉になっている。
 例えば8月31日の回。生放送時代の失敗談の1つ。ロケットの糸川博士のドラマで、ロケットの効果音を出さなければならないのに、ディスクの係が掛け間違ってセミの鳴き声のレコード(?)を出しちゃったという笑い話だ。
 似たような具体例は一杯あるだろう。
 私が笑い転げて気に入ったのは、なんといっても麻雀の場面。コンシェルジュの松岡伸子(常盤貴子)と前歴不明瞭なヤクザ老人・マロこと真野六郎(ミッキー・カーチス)が恋仲になって、この結婚に大反対の伸子の父ちゃん・元財務官僚の松岡信三(柴俊夫)が乗り込んできたところである。
 堅物の父ちゃんのウイークポイントは雀キチであること。松岡とマロと女2人(浅丘ルリ子と加賀まりこ)の4人でジャン卓を囲むのだが、したたかなマロは密かに牌の積み込みをやって、松岡に役満のチューレン・パオトオ(九蓮宝燈)をあがらせてやるのだ。
 松岡はインチキをやられたことに気が付いているが、人生で1回も成功し辛い九蓮宝燈をあがった興奮もあり、菊村に「よろしく」と言って帰ってゆく。
 何を隠そう私も雀キチで、かつてはプロ雀士のK氏をやっつけたこともあった。今でも大学時代の友人と偶には卓を囲む。わがセカンドハウスには前にも書いたが全自動の雀卓も置いてあるが、宝の持ち腐れだ。
 九蓮宝燈もイーシャンテンまでは完成したことがある。
 このドラマでは、シニアのホームなので、未だに手でジャラジャラと牌を掻き混ぜる設定になっていたからこそ、かような場面が書けたのだ。ナハハ。
 もう1つの笑った場面は、シリアスな事件の解決編だ。バー・カサブランカのバーテンダー、ハッピーちゃん(松岡茉優)が帰宅途中に非行少年たちに襲われ、辛い目に会う。それを聞いた老人たちが、昔取った杵柄で非行少年たちをぶん殴って復讐する。このシーンが笑えたのは、テレビ東京で好評の「三匹のおっさん」のぶん殴り場面とそっくりだったからだ。
 近頃の学校はすぐ体罰反対と言って、極ワルの子供たちや極ワルのモンスターペアレントに媚びる。ビンタの一発ぐらいかませてやらないとどうしようもないのに、何でも体罰反対とくる。
 倉本さんは多分この風潮を忌々しく思っていられるのだろう。ドラマの中で「ダメなものはダメ」と書きたかったのではないか。見ている私も、ヘロヘロになって悪い若者たちを成敗した場面に留飲を下げたのである。
 他には、亡くなった野際陽子さんの濃野佐志美。芥川賞は取り損なったし、ご本人も体調不良で気の毒だった。今年の民間放送連盟賞の中国四国地区報道部門で、一緒に審査員をやった下重暁子さんはNHKのアナウンサー時代の後輩で、「残念だったわ」と言っていた。肺腺癌だったそうで、確かに声が出にくそうだった。ご冥福を祈る。
 もう1人、私は有馬稲子さんのシーンが少なくて残念無念だ。宝塚時代の有馬さんは月丘夢路さんと双璧の美人だったと思っているし、昔の私のエッセイを読んでくださっていて、勲章をお貰いになったお祝いの会にもよばれたことがある。やーい、9月の残り場面に彼女をもっと登場させて!
 最後に真面目な話。倉本聰さんがインタビューで語っていた。「安倍首相だって戦争を知らない」。まさに私も同感で、あの時代を知らない人たちが元気のいいことを喋っているのを聞くと、とても心配になる。
 私は左翼でもなければ右翼でもないが、疎開体験者である。わが息子にさえ自分の戦争中の体験を語り継いでいないが、次々に体験者が天国へ旅立つのに危機感を持っている。
 倉本さんのような発信力の強い方々に、後しばらく頑張ってもらいたい。
 昭和20年代30年代のテレビ界を支えた人たちのドラマも楽しめたが、もう一発、現在のキナ臭い風潮をぶった切るドラマを、是非とも書いていただきたい。SNSの中で知ったかぶりのガキどもに、本物とは何かをわからせるために。