めずらしいフランスの合唱団のパフォーマンスを聴く

 

 『ラ・フォル・ジュルネTOKYO 2019』という催しものをご存じだろうか。10年以上前から行われていた『ラ・フォル・ジュルネ・オ・JAPAN』という音楽祭のことであるが、以前は金沢やびわ湖などでも行われていたので、『JAPAN』だったが、いろいろあって、今年は東京周辺だけになった。主会場は東京駅近くの東京国際フォーラムである。
 それで、今年のタイトルはJAPANがTOKYOになったのだ。
 フランスはナント市で誕生したクラシック音楽界の大音楽祭『LFJ』であるが、それを日本にもってきちゃったのが、口八丁手八丁のフランス人プロデューサー、ルネ・マルタンさんである。日本人に混じっても小柄な男性で、ご本人は音楽演奏家ではない。
 この音楽祭がユニークなところは、眉間にしわを寄せてしわぶき1つせず、エリート面で聴くマニアックなクラシック音楽ファンを嘲笑ったところである。
 つまり、0歳児でも入れるコンサートがある、時間はほとんどが45分か60分、入場料は1,500~2,500円ぐらいと安価である。5月の3日から5日までの丸3日間、320をこえるコンサートがびっしり並ぶ。ベタな食べ物屋も中庭に並ぶ。気取らないことはよい。
 東京国際フォーラムの5,000人も入れるドでかいAホール、B、C、Dホールの他に、地下2階のEフロアでは無料のコンサートや、インターネット・ラジオottavaの放送ブースなどがあった。
 今年のテーマは「ボヤージュ 旅から生まれた音楽」で、何らかの意味で旅に関係のある音楽の大行列となった。
 4日の午前中に5日のチケットを買おうと売り場に並んだところ、お目当ての『「Le Pari des bretelles~アコーディオンが紡ぐ旅物語~」エルメス弦楽四重奏団』のチケットは早々と売り切れだった。800席以上もあるB7ホールなのに満杯とは。
 マネジャー君、儲かってるな。
 このコンサートがナンバー324で、「売り切れです」と言われた途端に、私はつい慌てて「じゃあ、その次の325番でいいです」と言ってしまったのだ。
 実はAホールというドでかいホールの『音楽が紡ぐアラビアン・ナイト』を頼むつもりだったのに、番号を見間違えた。
 325は聞いたこともない合唱団の歌である。夕方5時からの公演である。
 チケットを買ってから「アジャー間違えた」!
 325は『La Nuit dévoilée ヴェールを剥がれた夜』ミクロコスモス ロイック・ピエール(指揮)という題名のコンサートである。ミクロコスモスはあのバルトークのピアノ曲を連想するが、ここではフランスの合唱団の名前で、1989年にフランスで創設された団体だ。
 まあ、これでもいいか。
 5日の朝はちょっと体調が悪かったので、3時過ぎに家を出て東京国際フォーラムに向かった。4日の東京駅周辺は大混雑だった。何故なら、この日は新天皇の初めてのお立ち台だったから、東京駅から行幸通りにかけては人の波、14万人も善男善女が押し寄せたのである。令和元年も平和だのぉ。
 さて、B7ホールは東京国際フォーラムの中で一番高いところにある。そもそも、この東京国際フォーラム自体がなんか頼りないスカスカのビルで、B7までエスカレーターで登るのだ。いつも途中で、「今、大地震が来たら、死ぬぞ」と思うような空間である。
 やっとB7に辿り着いたら、会場はいっぱい。私はサイドビュー席というのを買ってあった。正面の席は後ろの方にしか空きがなかったから、横からステージを見る席にした。
 5時少し過ぎて、会場後方から妙なる鐘の音が聞こえてきた。ハンドベルだろうか。
 ばらばらに会場の下手や横からメンバーが登場してくる。男性と女性が半々ぐらいで、背の高い黒人男性もいるし、小柄なラテン系(?)の黒髪の女性もいる。全員がウエストを絞った黒のロングドレスを着ている。肩から首にかけて華やかな金糸の入った刺繍のような花柄がついている。男性も女性もブラブラのイヤリングをつけていて、女性は髪をアップにしている人、後ろに垂らしている人、様々だ。
 パンフレットに演奏曲の作曲者が「タルボット、モンク、プーランク、ラーシェン、スローリエン、マンテュヤルディ、ペーデシェン、ルボフ、トルミス、グリーグ、ソンメロー」と書いてあったので、うあ、現代曲が多いのか、と構えていたら、大違い。
 短調でメローディアスな実に聴きやすい和音の曲ばかりだ。宗教音楽とも違う、かといって完全な民族音楽とも違う。まさに題名にあるように、「ヴェールを剥ぐような」何とも言えない人の声のたゆたう海原にいざなわれた気分である。
 言葉は全然わからないのに、ところどころ「ドミネ」と聞こえたので、なるほど神をたたえる歌かと感じた曲もあった。
 彼らは全員がステージ上や客席を静かに歩きながら、実につややかで美しい歌唱をする。指揮者のピエールさんだけが黒いスーツで、振りながらステージ上を移動する。
 かつて私は、日本の一番うまいプロ合唱団の東京混声合唱団が現代曲でこのような動きのある演奏を聴いたことがあった。ステージに突っ立って声を聴かせるだけより遥かにパフォーマンスとして楽しい。
 ものの50分強の時間、歌いっぱなしで、終りも三々五々客席の間を通って全員が去っていったのだが、最後はまたステージに帰ってきて、全員でお辞儀をした。アンコールはナシ。
 とにかく、美しく雅で楽しい歌のパフォーマンスを聴いたという印象であった。
 ラ・フォル・ジュルネTOKYOは来年もまた開催されると、マネジャーのボスとマルタンさんが約束していた。私が何年も通った印象でいうと、当然、主催者団体所属の演奏家を優先するのは仕方がないが、今回のテーマでは民族音楽系の珍しい演奏家も来たけれど、例年、登場する日本人音楽家が固定化されていてつまらない。
 商売のこともあろうが、こんな世界的大音楽祭だ、もっと毎年顔ぶれを代えてもらいたい。
 ね、梶本眞秀サン。
 全体として、好天にも恵まれ、令和元年の音楽会としては大成功でした。