びっくりだ。今年の総合広告電通賞は大塚製薬が取った!

 

 このほど第69回、広告電通賞の受賞作が決まった。
 私も長く広告電通賞テレビ部門の選考委員をやらせていただいているが、広告電通賞には新聞、雑誌などの紙媒体から、ラジオやテレビなどの電波媒体、加えて近頃はインターネット関連部門もあり、多岐にわたっている。
 それぞれの部門で優秀な作品が選出され、最後に選考委員全員(大阪や北海道など地方からも加わる)で総会が開かれて、その年の媒体を横断して1番多くの賞を獲得した企業や団体が「総合広告電通賞」に選ばれるのであるが、これまでは、超有名企業のご常連が選ばれることが多かった。
 つまり、広告制作の巧者、サントリーや昔の松下電器産業(今はパナソニック)などが常連で、1度このエッセイにも書いた記憶があるが、第33回にサントリーが受賞したら、偉い方がやってきて、受賞の挨拶で「今年は33回のサンサンサントリーで、多分ウチがいただけるだろうと思っていました」というようなことを言って、大いに受けたのである。
 ところが、今年はびっくり仰天、大塚製薬株式会社のカロリーメイトがテレビ部門でもトップになって、総合広告電通賞まで取ってしまった。「みせてやれ。底力」というタイトルのシャレた線描きで描かれた物語である。カロリーメイトが土壇場でパワーを与えるというCMである。
 テレビ部門は商品部門Ⅰと商品部門Ⅱ、サービス部門、教育・文化・娯楽部門、企業・公共部門、スポット部門、シリーズ部門と7部門あった中で、カロリーメイトは商品部門Ⅰのトップで、全国で544点参加、最終選考会では105点の中から選ばれたものであった。相当な競争率である。
 同じく大塚製薬のポカリスエットはシリーズ部門でもトップになり、テレビ部門では大塚製薬のワンツーフィニッシュだった。
 ポカリスエットのCMとは、近頃よく見る「ポカリ、のまなきゃ」というアレで、ドラマで大人気の吉田羊と人気子役が親子役で「ポカリ、のまなきゃ」と画面から歩き出す印象深い画像である。
 自慢じゃないが、私は生まれて一度もポカリスエットなる飲料を飲んだことがない。でも、昔、大好きだった大演奏家ピアニストのシューラ・チェルカスキーさんが、ポカリスエットを年中お供にしていると聞いたことがある。残念ながら彼はもうずいぶん前に亡くなったが。外国人のファンまでいた飲み物というわけである。私も一度、「ポカリ、のんでみなきゃ(?)」
 惜しいところでテレビ広告電通賞は逃したが、「教育・文化・娯楽部門」で最優秀賞を取った早稲田アカデミーのCMが出色の作品であった。私はこれに最後の投票をしたのである。
 早稲田アカデミーは予備校である。だから、企業のようにそんなにバンバン広告は打てない。一般人の目には余り触れていないと思う。私も審査会で上映されたものを見るまでは全く知らなかった。
 タイトルは「へんな生き物」である。へんな生き物とは大人の目から見て「へんな生き物」に見える子供の動態について描いたユーモラスなCMだ。
 小学校低学年に見える男の子が起こす行動を母親は理解できない。
 例えば・・・。
◯小さい男の子は狭い押し入れに入りたがる
◯高いところ(公園の施設など)に昇りたがる
◯集中力がない
◯ポケットに砂が入っている
◯人のものを勝手に飲む
◯階段から飛び降りる
◯ダンボール箱に入りたがる、などなど。
 ところがある日、子供は母親に「ぼく、塾へ行く」と宣言して驚かせる。理由は「勉強して宇宙飛行士になるんだ」と断言して母親の目を丸くさせる。つまり、狭い押し入れの中を、彼はロケットの玩具を暗い宇宙空間に見立てて飛ばしていたのであり、高いところでは空に上がるロケットを頭の中で描いていたのであり、ポケットの砂は「人類の偉大な一歩」として宇宙飛行士が降りたった宇宙の砂で、人のものを飲んだのは宇宙食の代わりだったのだ。
 子供の空想の世界の広がりを、人間は大人になると忘れてしまう。まことに良くできた分析であり観察であり、私は膝を叩いて唸った。これはうまい!
 実は私にも7歳の男の子の孫がいる。彼を預かると、わが家のリビングで、このCMと同じく狭いところに隠れたり、ソファから飛び降りたり、一時もじっとしていない。今のところ宇宙飛行士になるとは聞いたことがないが、大人の範疇からは想像もできない思考回路をもっている「生き物」であることは確かだ。小さい男の子とは大人には想像できない「へんな生き物」と言う感じが、実に巧みに描写されたCMであった。
 今年の応募作は全体によくできたものが多かった。
 過去には、娘を嫁に出す父親の淋しさとか、典型的なお涙ちょうだい物語があったりして、それがオジサン審査員にうけて辟易したものだった。そういったものは次第に影を潜めてきた。いい傾向である。
 来年はいよいよ広告電通賞70回のラウンドマーク年である。
 今年の大塚製薬のように、毎度おなじみ常連企業ではない企業や団体、今年の企業・公共部門最優秀賞に輝いた宮崎県の小林市など、珍しい受賞者がグランプリを取ってくれれば審査する方としても楽しい体験ができると思う。