押し売りでなくて押し買い!

 

 東京国税局から「自動車税を支払ってないよ」という怖い文書が来た。
 長い間、夫名義でクライスラーのPTクルーザーという名の自家用車を持っていたのだが、今年車検だし、もう長く乗っていたので、6月に売ってしまったのである。この車への税金である。
 6月にディーラーと売買契約書もちゃんと交わしてあり(つまり、まだピカピカだったので、中古車としてあっという間に売れたのである)、その時に、5月末日が期限の自動車税の、今年のわが家の分担金も支払ってあったから、私は早速税務署の担当者に電話をかけて、「こっちは支払いましたよーーー」と言ったのである。
 私としてはこちらから中古車ディーラーに売った金から税金分を天引きされたので、税務署が「払ってないよ」と文句を言うのはディーラーに対してだろうが、と思ったからである。
 担当窓口の女の人は、税務署に文句を垂れる相手に閉口したのか、上司という男の人に代わった。
 この上司が物凄い上から目線の横柄男で、私をただの専業主婦とでも思ったのか、カサにかかった物言いをする。私はカチンときた。
 「4月1日現在の持ち主はそちらなので、あくまでもこちらとしては、その持ち主に請求します」だという。
 「だったら、既にわが家の分を受け取っているディーラーにおっしゃればいいじゃありませんか。家には支払い用紙ももうないんですから」と私。
 「法律でこっちからはディーラーに連絡できないことになってるんです」
 (そんなこと、私の知ったことではない)と私の内心がつぶやく。
 車はとっくに売れたのに、ディーラーはなんで税金を払っていないのだろうかと、また腹が立つ。このクソ忙しいのに、私がディーラーに連絡せねばならないのはどう考えてもバカバカしい。電話代返せ。
 仕方なくディーラーに私が電話を掛けたら、相手は暢気なもので、その督促状を着払いで送ってください、だって。やっぱりまだ納めていなかったのだ。
 「私は車を売った時点で分担分はお払いしましたよ。なんでわが家が国税に電話代を負担して掛けなきゃならないんですか」と文句を言うと、「納付期限は何時になっていますか、コンビニなら宅急便の着払いにできますよ。急いで送ってください」と、言葉遣いは丁寧だが、シレーっとしているのだ。こっちは忙しいのだ。
 自己中の極みである。ひとこと「すみませんが」と言え。
 かくして私は暑い暑い午後にコンビニへ走る羽目になったのだった。
 日本はまだまだ男社会で、相手が専業主婦だと思うと、社会性がなくて頭の回転が遅い、万事が男より劣っている者だと決めてかかる。しかも、電話だと声だけなので当方を只の鈍いオバサンと見る。
 巷にはこれ程声高に注意喚起されているのに、まだ振り込め詐欺に引っかかるバカ女が一杯いるのであるから、仕方がないと言えなくもないが、片足が主婦で片足が物書きの私にはムカつくことが多いのだ。
 私はテレビに出ないし写真も撮られるのは嫌いなので、顔を知られていないから、大抵、鈍い高齢の主婦と見られて嫌な思いをする。
 国税の横柄オヤジだけでなく、近頃、こんな体験をした。
 固定電話にしつこいほど「何々を売ってくれ」という電話がかかるが、私は大抵「結構です」と切ることにしていた。「売ってくれ」という物の内容は衣類に靴と主婦族が食いつきやすい物にしてある。
 いつもガチャンと切っていたのに、その電話は、「貧しい東南アジアの人たちに贈るボランティアです」という言葉に引っかかった。とにかく中古でいいから、着なくなった洋服類を売ってくれという内容である。それならウチの衣装棚に捨てるほどある。私は流行を追わない方だが、それでも毎年何がしかの衣装は買うので、新品同様の結構高い洋服もタンスの肥やしとなっている。
 「どうぞ、ありますから纏めておきます」と答えて電話を切った。
 約束の翌日である。オートロックのマンションの玄関からインターホン越しに業者の顔が映った。大柄の男らしい。オートロックを解除した。
 中庭に出て、それぞれの階段を戸建てのように登る様式のマンションで、わが家は3階である。
 すぐに家のインターホンが鳴った。
 玄関のドアを開けると、突然、男が押し入ってきた!!!
 私はボランティアで東南アジアの人たちに贈るという衣装類を、玄関の絨毯の上にきれいに並べて置いてあった。
 男はそれらには目もくれず、両手を絨毯の上について、体を伸ばし、廊下の奥に続くリビングの方に目をやりながら、ドスの利いた声で怒鳴ったのである。
 「金はないかい、プラチナはないか?」
 目がギラギラしている。
 「ヤバイっ」と私は思った。夫も出かけている。玄関に入れるのじゃなかった。勝手に部屋に上がりそうな雰囲気だったので、私はキツイ目で、断固として答えた。
 「衣類とおっしゃったので金なんかはありませんっ。お帰り下さいっ」
 私の剣幕に男はびっくりしたように後ずさった。そのまま私は彼を玄関の外に押し出し、鍵をがっちりと締めた。男は間違いなくその筋の人だったと思う。