瓢箪からコマならぬ、瓢箪から阪神タイガース新監督

 

 言ってみるものだ。
 前回のエッセイで、私は「高橋由伸監督も辞めた、金本知憲監督もお引き取り願いたい」と書いたら、本当に金本さんが降りちゃった。内心では、彼が「次期構想を練っている」などと報道されていたので、とても今期の交代はダメだろうと考えていたので、驚いたし、喜んだ。
 スポーツ紙や週刊誌の記事によれば、9月28日にナゴヤドームで中日に逆転負けした後、ホテルに帰ってきた監督が、ファンに「辞めろ!」とやじられて激高し、あわや暴力を振るいそうになった動画が、一瞬とはいえネットにアップされたそうだ。
 この騒動をきっかけに一気に解任が動き出したと書いてある(週刊文春)。
 別の媒体では、私も先回書いたように、ノーベル賞の本庶佑先生が、テレビに出演した時に、阪神ファンとして聞かれて、「指揮官が駄目」と答えられたのをきっかけに、本社の意向も解任に動き出したと書いてあった。
 もっと直接的な解任原因は、金本さんの後ろ盾だった球団の坂井オーナーが辞任したことが大きいという。
 いずれにしても、心あるタイガースファンは、腹の中で一年中、切歯扼腕していて、早く監督を交代させてほしいと願っていた。それが届いたのだろうか。
 私も金本さんの明るさは大好きであるし、個人的には何の恨みもないが、采配が下手で、およそプロらしい奇手もなく、素人でも読める平々凡々の手しか繰り出せなかった。彼は策士ではなく、いい人止まりだったのだ。
 辞任して当然だった。
 さて、後釜が2軍監督の矢野燿大さん。
 私は岡田彰布さんや掛布雅之さんなどの、巷の噂ばなしにも多少は関心があったが、彼らでは代わり映えしないなあとも思っていた。
 巨人の新監督が3度目の原辰徳さんと聞いて、「またか」と思ったようにである。「清新」な印象は監督人事に必要である。原さんは優勝請負人的実力者だとは思うが、「またか」と思うのも事実である。
 その点、矢野燿大さんはまだ40代だし(矢野さんの方が年上だが、わが息子とどっこいどっこいの若さ)、元キャッチャーというのが要(カナメ)である。
 キャッチャーはいつも全野手を見張っている。
 監督やコーチが司令塔には違いないが、球種を選んで投手をリードする現場の司令塔は捕手である。捕手は重責である。
 年がら年中、中途半端にしゃがんでいるので、「痔主」が多い(笑)。多いどころか全員が「痔」問題で悩んでいると聞いたことがある。だって、尾籠な話で申し訳ないが、捕手の構えは和式トイレで座っているのとそっくりだからだ。
 キャッチャーは如何にガードを着けていても、バットを振り回すバッターのそばにいて、気が休まる暇がない。
 また、気の毒なくらいボールが当たる打撲の標的になる。バッターが打ちそこなったボールが、キャッチャーの急所に当たって、悶絶しているシーンを何度見たか知れない。笑っちゃ悪いが、女にはない急所に当てられた痛さは、尋常でないらしい。と、昔、職場の草野球をやっていた夫に聞いたことがある。  
 チーム全体の扇のカナメでも、捕手は怪我しやすいポストである。
 しかし、また、キャッチャーはバカではできない。
 今マウンドにいるピッチャーの持ち球の中から、バッターの弱みを睨んで、打たれないようにサインを出さねばならない。盗塁阻止の司令塔でもある。
 だから、キャッチャー出身の矢野さんは野手だった金本さんより監督に適任だと思う。
 コテコテの大阪弁がスマートな顔に似合わない人だが、笑顔が可愛い。笑顔を見ると人が好さそうで、その点はちょっと心配。監督は腹黒い面も持ち合わせなければ、斬った張ったの真剣勝負に勝てないからだ
 10月18日付の日刊ゲンダイによれば、矢野さんは最初に入団した中日ドラゴンズで、当時の星野仙一監督に捨てられたという。つまり、97年オフにトレードに出された。当時の阪神監督・吉田義男さんが中日の中村捕手を望んだのに、星野さんに捨て駒同様に放出されたのは矢野さんだったという。
 そんな古いことを私は覚えていないが、確かに最初は矢野さんの印象が「中日の矢野」だったように記憶する。その後は勿論、阪神の正捕手として大活躍、2度のリーグ優勝に貢献している。
 お酒は飲まない下戸だが、野球論を喋り始めたら止まらないという。どちらかと言えばむっつりした指揮官だった金本さんより、今の若い選手たちには、喋ってくれる監督の方がコミュニケーションを取りやすい。
 就任受諾の記者会見で、矢野新監督は「やってやる」と勇ましい言葉で挨拶した。2軍で優勝した実績があるのだから、のびのびやればいい。
 藤原さんという新オーナーが、時代錯誤の「野武士」論を振りかざしても、好きにやればいいと思う。
 DeNAのラミちゃん、ヤクルトの小川さん、広島の緒方さんはそのまま。中日は与田さん、巨人は原さんときて、阪神は矢野さんの3者大変わり。
 来年の試合が楽しみである。
 これを書いている現在はCSの真っ最中。
 セ・リーグは広島が相変わらず強い。前回書いたように、プロ野球は監督次第であるからして、矢野燿大さん。来年はCSに出てよーーーっ。ビリは嫌だよ。