第3回オペラ紅白歌合戦~声魂真剣勝負~をサントリー大ホールで聴いてきた

 

 一昨年の第1回と昨年の第2回に続いて、今年も12月3日夜、サントリー大ホールで行われた『第3回オペラ紅白歌合戦』を聴きに行ってきた。
 超満員の大盛況で、3時間の長丁場が夢のように過ぎてしまった。
 翌日の夜、友人から電話が掛ってきて、「よかったわあ」と褒めている。
 彼女は機械関係(制御器)の会社を経営していたご主人と2人で、毎年、バイロイトほかでオペラ三昧の夏を過ごすというオペラ通で、今年も1ヶ月あちらに行っていたという(お金持ち!)。
 耳が肥えていて、すこぶる煩い。
 昨年は相当な辛口評価だったが、今年の内容は気に入ったらしい。友人たちと連れだって5人もで聴きに行ったのだそうだ。
 確かに、今年はメンバーも重量級で、ベテランから若手までスターが揃っていたし、何より、推薦人の5人の中の1人、指揮者の沼尻竜典さんが白組の指揮を執ったので、豪華だった。
 沼尻さんは結構、剽軽な方と見えて、指揮者なのに「歌いたい」とリクエストしたり、最終的に白組が勝って、スポンサーから優勝旗を手渡されると、それをもってステージ上を走り回り、挙句の果てにオーケストラの最後部座席の後に上がって、そこで旗を振りまわしていた。
 客席は大爆笑!
 一方、紅組の指揮者はロメリー・プフント(Romely Pfund)さんという外国人の方。ノイブランデンブルグ・フィル、ベルギー響、ノイシュトレーリッツ州立歌劇場監督などを歴任した人である。小柄で知的なお顔の人である。
 所要時間が長いので、普通のクラシック演奏会より30分早く、午後6時半に始まった。
 サントリーホールの前には美しいイルミネーションのツリーが飾られ、ホール玄関を入ってすぐのデコレーションも華やかである。私は長くN響の定期会員だったので、月に1度は必ずサントリー大ホールへ足を運んでいたから、格別珍しくもないけれど、クリスマスが近づくこの季節の雰囲気には格別なものがある。
 歌合戦は紅組の光岡暁恵(ソプラノ)さんから始まった。曲は極め付きの定番、ヴェルディ『椿姫』より「ああ、そは彼の人か」。ワインレッドの素敵なロングドレスで歌声は可憐の極み。
 対する白組のトップバッターは三戸大久(バスバリトン)さん、大男である。偉丈夫の貫録で、横で棒を振る沼尻さんが子供に見えてしまった。モーツァルト『ドン・ジョバンニ』より「ご婦人、これがカタログですよ」の色男伝説。
 と、全員の出演情報を列記していたら紙幅がいくらあっても足りない。今年は粒ぞろいで誰もが素晴らしかったから、はしょる。ごめん。
 これまでと違って目立った人では、ご常連のカウンターテナー、弥勒忠史さんがロン毛を切っちゃって、短髪で出てきたこと。しかも、お坊さんの袈裟のような黒いロングベストを羽織っていたので、ますます中性っぽかった。
 残念なのは、私の好きなソプラニスタの岡本知高さんが今年は出なかったことである。あの、とんでもない男性のソプラノは何時でも聴きたい。来年は出てーーっ。
 前半の最後にヴェルディの『ファルスタッフ』より「これは夢か? まことか?」を歌った体格の立派なバリトンの上江隼人(カミエハヤト)さんは、艶のある声で劇的な表現力が素晴らしかった。
 女声で目立ったのは2組の二重唱。前半の天羽明恵(ソプラノ)さんと加納悦子(メゾソプラノ)さん。後半の田村麻子(ソプラノ)さんと小林由佳(メゾソプラノ)さん。いずれも美しいハーモニーと見事な立ち姿でブラボー。
 今年初めてNHKのお気に入り、メゾソプラノの林美智子さんが大柄な体をタイトな紺のドレスに包んで登場した。彼女は「白組倒すぞ」とコメントでも張り切っていて、紅組が負けたとわかった時に、異議を申し立てた。
 男声の最後から2番目に登場したテノールの人気者、笛田博昭さんが、ヴェルディの『イル・トロヴァトーレ』より「見よ、あの恐ろしい炎を」を歌った時、舞台の下手よりぞろぞろと出演し終わった男性歌手たちが登壇してきて、笛田くんのソロに合唱で応援したのだ。
 突然のびっくり応援団に会場も大盛り上がり、絵的にも素晴らしく、みんなソロの達人たちが合唱するのだからめちゃくちゃうまくて、湧きに湧いた。
 この件を林美智子さんは「ルール違反だ」と文句をいったのである。そりゃまあ、紅組が負けたので、文句も言いたくなっただろう。でも、ご愛嬌だ。
 他に人気絶大美人ソプラノ、砂川涼子さん、相変わらず直立不動で歌うチャイコフスキーコンクール優勝20周年記念・佐藤美枝子さんの超絶技巧、ヤクルトが好きで、お内裏様顔の張りがある美声の持ち主・テノールの村上敏明さん。女声のトリ、立ち姿の美しいプッチーニ『蝶々夫人』「ある晴れた日に」を歌ったソプラノの腰越満美さん。大トリはテノールが普通なのにバリトンが登場し、ジョルダーノの『アンドレア・シェニエ』より「祖国の歌」をよく響く声で熱唱した須藤慎吾さん。マイクの調子が良くて司会者(本田聖嗣)にも大拍手。
 他にも一流歌手がいっぱい!
 年末のコンサートが多い時期に、これだけのメンバーを集めた関係者の苦労は大変だっただろう。だけど、お客にとっては至福の時間。来年も行くぞー。