『いだてん』に韋駄天で、ご注進!

 

 心配していたことが現実になってしまった。NHKの大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』の視聴率が、とうとうヒトケタになったのだ。10日に放送された第6回の視聴率が9.9%(関西は8.0%!)、17日に放送された第7回はもっと下がって9.5%になっちゃった。天下の大河ドラマなのに下がるのが早すぎる。
 私は1年も続くドラマの場合、マスメディアに取材されても、すぐにはケチをつけない。何回か見てみないと作り手の意図が明確にわからない場合もあるし、一所懸命に頑張っているのだから、なるべくいい面が出てくるのを待つ。
 だから、今回の『いだてん』も1月、新聞に取材された時に、続けて見てみないとまだわからない、と答えた。だが、初回から「どうもなあ」とは思っていた。
 夕刊紙に派手にやられている。
 「いだてん 史上最速視聴率1ケタ転落で、クドカン大ピンチ、受信料不払い運動に発展も」という見出しだ(2月16日 日刊ゲンダイ)。わあ、ボロクソ。
 私なりに問題点を列記してみる。
 〇 気に入らないナンバー1は、古今亭志ん生役の狂言回しであるビートたけしさんの滑舌が悪くて、高座のセリフがよく聞き取れないこと。彼が大物過ぎて、多分、演出家が注文をつけられないのだろう。大河ファンであるおじいさんおばあさんはほとんど聞き取れないと思う。たけしさんは、TBSの「ニュースキャスター」に出ている時も、一人悦に入って喋っているが、何言ってんだかさっぱりわからないことがある
 私はたけしさんを大好きなのだが、彼のセリフはホント、聞き取りにくい。残念だ。
 〇 次に、才気煥発の宮藤官九郎くんが、張り切って書いているのはわかる。だから、昭和35年に渋滞で止まった乗用車の中で、後半の主役になる田畑政治(阿部サダヲ)がイライラしている横を、明治時代の「いだてん」が走り抜けるって、幻のようなシーンがある。ファンタジーであるが、大河ドラマの時代劇好きのじじばばは、この粋な場面をキョトンと見ているだけで、「なんのこっちゃ」であろう、多分。
 私は「やるねえ」と思って見ているが。
 ついでに言うと、明治の終り頃と、昭和30年代とを行ったり来たりのミキサー状態で描くのは、はっきり言って無理がありすぎ。人力車を引いている若き日の志ん生、つまり、不良の美濃部孝蔵(森山未來)が、人力車を引いている場面でも、足袋姿の「いだてん」(?)とすれ違う。脚本が頭に入っていない視聴者では、大抵の人が正確に理解しないで見過ごすだろう。
 フィーリングで見ている若い人には受けるかもしれないが、論理的に物語を追うのに慣れている高齢者は、理屈に合わないと気分が釈然としないだろう。
 「ああ、わけわかんない。美男美女の俳優も出ていないし、めんどうくさいっ。やーめた」となる。「金栗四三っていったって、私たちでも知らないしね」とお年寄り。
 大河ドラマの固定ファンにそっぽ向かれたら、お先真っ暗だ。
 〇 もっと致命的な問題がある。NHK御用達みたいな人気者の綾瀬はるかさんが田舎の場面に登場するが、物語の主人公の1人ではない。第7回に重要な場面で登場した杉咲花さんが、金栗におにぎりを渡す女中のシマになっているが、これもサブ。
 ド迫力の薩摩弁を喋る三島家の奥様役・白石加代子さんなどは、抱腹絶倒で面白いのだが、従来の大河ドラマファンには通じまい。
 肝心の主役の1人、金栗四三を演じる中村勘九郎くんが致命的に魅力不足である。お父様の故・勘三郎には、得も言われぬ色気があったが、勘九郎くんはただ武骨なだけ。美男でもないし色気もない。舞台だと化粧とキンキンキラキラの衣装で華やかになるが、素のままの勘九郎くんは素朴さはあるけれど、どちらかといえばブス(失礼)の部類だ。 
 女性の視聴者がうっとりは断じてしない。
 ピンチを救っているのは芸達者の役所広司さんだが、近頃は宝くじの宣伝で露出が多いので、すっかり3枚目のイメージである。だから彼にも女性ファンはつかない。
 ハンサムな三島弥彦になる生田斗真くんは、目下売り出し中の俳優だが、大河ドラマの金看板に成長するほどのオーラはない。CМも安っぽいしね。
 ご大家の三島家の屋敷や前庭などのロケシーンは素晴らしいし、食事マナーの場面もエピソードとしては面白い。女房のお尻に敷かれた大森兵蔵(竹野内豊)もおかしい。
 〇 明治の場面で私が気に入らないのは、当時の東京と熊本など地方との距離感がさっぱり出ていないこと。私の母は明治生まれの赤坂育ちだったが、親の都合で四国にわたった時、三日三晩もかかったそうだ。
 四三が東京高師から郷里に帰省する場面も、簡単に場面が切り替わる。「お前はどこでもドアをもっている『ドラえもん』か」と言いたくなる。スタッフも脚本家も多分イメージがわかないのだろう。私が戦争中に縁故疎開をした時にも、移動は死ぬ思いだった。ましてや明治時代だ。昭和30年代でも東京から熊本に移動するには、寝台列車を乗り継いで大変だったのだ。
 新幹線はもちろんない(39年の前にやっと開通した)。それまでは東京―大阪が特急で6時間になったといって大騒ぎしたくらいなのだ。若いスタッフには実感としてわからないのだろう。『西郷どん』の時も、鹿児島―京都―江戸が『どこでもドア』だった。
 だから、この時代の人々の苦労と心情が伝わらないのである。
 ◎ 楽しいのは足がぐるぐる回るタイトルバックのイラスト。アイデアが秀逸だ。『あまちゃん』の時も多分同じだったと思うが、音楽の大友良英、細密画の横尾忠則さんらも素晴らしい。もちろん私は宮藤官九郎くんの才気も愛でている。笑いが多いのも楽しいから、登場人物をもう少し整理して、時代の行ったり来たりを恣意的にやるのはやめたら?
 昭和39年の東京オリンピック当時、四谷に住んでいた私でも、田畑政治さんのことには関心がなかったから、これから始まる裏話には大いに期待する。
 ただし、狂言回しの落語家は、はっきり言っていらない。