今年のお酉さまは、二の酉まで

 

 私は例年、新宿・花園神社のお酉さまに出かける。仕事が忙しかろうが何があろうが、必ず一の酉の前夜に出かける。
 10年以上前から、花園神社には馴染みの店があって、いつもハガキで案内をくれるので忘れずに行けるのである。
 今年の案内にはこう書かれていた。
 「拝啓 晩秋の候、皆々様には益々ご繁栄の事とお慶び申し上げます。
  さて、恒例の新宿花園神社 酉の市は、左記の通り行われます。
  何卒本年もご参拝の折りには、是非とも私どもの開運の熊手を
  ご用命くださいますようお願いいたします。

  一の酉 十一月七日(木)~八日(金)
  二の酉 十一月十九日(火)~二十日(水)
 
とあって、左上にはお店の屋号と提灯番号、左下には住所と電話番号が書いてある。
 新宿花園神社境内 〇〇〇」
 まだ境内が空いている午後3時半過ぎに着くと、ハンサムなこのお店の若旦那が、「お元気ですね」とニコニコしながら現れた。彼から見れば私は高齢者だから「お元気ですね」の言葉になるのだろうが、私はまだ現役なので、元気なのは当たり前である。
 いつも通り、船形の均整の取れた座り置物(?)熊手を買う。
 商人ではないので大きいのは買わない。13,000円のものを10,000円で売ってくれた。
 家族が神棚の方を向いて熊手を持つと、旦那衆が寄ってきて、「よーっ」と威勢よく3本締めの手拍子で祝ってくれた。私はパチパチと写真を撮る。
 帰り際に、「来年もよろしくお願いいたします」と声をかけられたので、「さあ、生きていればね」と減らず口を叩いた。これは本心である。
 6年前の東京オリンピック招致が決まった時にも、「さあ、それまで私は生きているかしら」と思ったくらいである。
 明日のわが身はどうなるかわからない。
 私は決してペシミストではないし、家族もみんな明るいから、まだまだ終活なんてやっていないが、人間、一寸先は闇である。
 買った熊手の説明をすると、前面には真ん中に、福と書かれた大判小判の大判が、金色の兜を被ってどんと鎮座ましましている。
 その左右には3つの米俵の上に竜の首やら、打ち出の小槌やら、的に矢の刺さった飾り物とおかめの面の付いた招福の看板やら。その後ろには『め組』の纏いが2つ並んでいる。 
 兜の真後ろには『笑門』があり、真っ赤な紅梅と真緑の松の枝が天に向かって咲いている。
 要するにありったけのお目出たグッズの満艦飾なのだ。
 さらにさらに、若旦那が、『大入り』と書かれたポチ袋を左右に3つずつ差し込み、前面のしめ縄には本物の稲穂を3本ずつ差し込んでくれた。
 今度は裏側である。
 『商売繁盛』『交通安全』『家内安全』『火の用心』、そして、左の端が『新宿花園神社』。
 うわあ、欲張りの満艦飾、これで1年、怪我もなく、お金も儲かり、元気に過ごせるか。
それは来年の末のお楽しみである。
 昨年も似たような満艦飾熊手を買ったのに、オリンピックのチケットはただの1枚も当らなかったのだよ。トホホ。
 花園神社は関東三大酉の市の1つであるが、今年は行った時間が早かったからか、例年だと社殿前の階段に長蛇の列ができているのに、とても空いていてすぐお参りが出来た。
 熊手屋の若旦那も、「今日は妙に空いている」と言っていたが、この後、夜通し賑わうのだから時間が早すぎたのだと思う。
 昨年の古い熊手や神社の「大酉祭」と封筒にかかれた稲穂熊手などを、返却場所に投げ入れてから、新しいのを買いに行ったのだが、何故か神社の社務所辺りも人出が少なかった。
 ちょっと寂しい。
 消費税が値上がりしたから不景気なのだろうか。まさか。
 小腹が空いたので「大たこ」が売り物のたこ焼き屋に寄った。
 いなせな旦那がたこ焼きを作ってくれながら、浮かぬ顔でこぼす。
 「タコの値段が値上がりしたので、さっぱり儲からないよ」と。
 凧(たこ)ならば、揚がる方がいいが、蛸(たこ)は騰がったら、困るわけだ。
 ここのたこ焼きは「大たこ」の名前の通り、値段も他より高いが、巨大で食べ甲斐があるし、トロトロで美味いのだ。けれど、タコの値上がりで儲からないと聞いて、何となくおかしかった。テキヤさんたちも切ないのである。
 昨年は、奥まったところにある店で何種類かの食べ物を注文したら、大いにぼられた。
 この店は天井際に掲げられた食べ物の名前の下に、一切値段が書いてなかった。
 つまり、路地の前の方で商う公明正大な値段表示の店と違い、お会計の時に、いくらでも高く分捕れるのである。
 だから、今年は値段表示してある店を選ぼうと考えていたのだが、結局、時間が早かったので、たこ焼きだけ買って、去った。伊勢丹がすぐそばにあるので、夕食の食材を買い、「とらや」でお薄と季節の甘いものをいただいて、帰ってきた。
 今年は二の酉まで。昨年は三の酉まであり、火事が多いと言われている通り、沖縄で大事な首里城や国宝が焼けてしまったし、パリでもノートルダム大聖堂が火災に遭った。今年は二の酉までなので、火災は起きないでほしい。
 まことに一寸先は闇である。
 お酉さまに詣でて、火事の話で終わるとは、縁起でもない。ごめんなさい。