第2回 オペラ歌手紅白対抗歌合戦を聴きに行ってきた

 

 12月4日の夕方、サントリーホールの大ホールで開催された「第2回オペラ歌手紅白対抗歌合戦~声魂真剣勝負~」を聴きに行ってきた。
 ご本家のNHK紅白歌合戦が大晦日開催なので、去年の9月と違い、こっちの方も12月開催で、やや親分に近づいた感じである。
 一言で感想をいうと、「いやあ、今年も楽しかった!」に尽きる。
 今年の指揮者は紅組が小柄な田中祐子さんで、白組が村上寿昭さん。おかしいのは去年も出演したテノールのお内裏様のようなお顔のスター、村上敏明さんと指揮者の読み方が全く同じの(むらかみとしあき)さんであることだ。
 楽屋でこんがらかったりしなかったのだろうか。
 歌手の方の村上敏明さんは今年は白組のトリである。テノールの最大の難曲といわれる『イル・トロヴァトーレ』の中の「見よ、あの恐ろしい炎を」をドラマティックに歌った。
 彼は昨年、ステージで頑張りすぎて酸欠になりそうだったと楽屋で大笑いだったそうだ。私は別のコンサートで彼を聴き、ハネてからロビーでお見かけしたので、「オペラ紅白も聴きましたよ」というと、すごく喜んでくれて、とってもいい人である。見れば見るほど彼は昔のお雛様のお内裏様によく似ている。
 皆一流歌手ばかりで上手い人たちだが、中でも今年の白組では、特にテノールの笛田博昭さんが素晴らしかった。定番中の定番、プッチーニの『トスカ』より「星は光りぬ」の耳タコ曲を熱唱したのだが、テノールが客を沸かせる高音部ではなくて、中低音域の何ともいえない伸びやかな発声に聴き惚れたのである。
 男声では昨年に引き続いて大人気者のソプラニスタ・岡本知高さんが、あらら、珍しや、これまたユニークなカウンターテナーの弥勒忠史さんと一緒に、ヴィヴァルディの『グローリア』より3曲目の「我らは主をたたえ」を明るく二重唱で歌った。男2人のソプラノ音域なのだ!
 バロック時代の曲なのでオーケストラの編成も小ぶりである。巨体の岡本さんと、これまた背の高い弥勒さんの2人がステージ前方に並ぶと、オケが小さく見えた。笑っちゃったのはインタビューで、弥勒さん、「岡本さんの衣装を踏まないように気を付けました」だって。
 岡本さんの衣装は、絢爛豪華なラメ入り緑の超華やかなロングドレスである。男声はみんなが黒タキシードなので、唯一の色物衣装が岡本さんで目立った。
 私はソプラニスタの岡本さんの爆発的に明るい個性が好きである。昨年は蝶々夫人の「ある晴れた日に」を朗々と歌ったので、今年の短いバロック曲は物足りなくて残念だった。もっと大曲を歌ってちょうだい。
 衣装といえば、女声の3番目に登場した二重唱のソプラノの緑川まりさんと、メゾソプラノの谷川睦美さんの2人。むっちりした大柄な女性で衣装も華やか、チレーアの『アドリアーナ・ルクヴルール』より「さあ! 返事がないわ」を歌ったのだが、歌もいいがステージ映えする2人の容姿が格別目立った。後でインタビューに答えて、「前の方の登場だったので忘れられないように(頑張った)」と答えて大受け!
 さて、今年はあのでっかいサントリー大ホールがほとんど満杯で、ステージ後ろのP席も一杯に客が入っていた。
 本番のNHK紅白でも登場する麻布大学野鳥研究部のメンバーが客席の審判を数えた時に、白赤どちらも900を超えていた。昨年は紅組の勝ちだったが、今年は私も推した白組が勝った!
 黒いタキシードの姿勢のいい男声陣が子供のようにぴょんぴょん跳ねて喜んでいたのが可笑しかった。いくつになっても試合に勝つと嬉しいのだ。
 最後の全員合唱の時に、歌手たちを推薦したお偉いさんたちもステージに上がった。彼らを代表して、作曲家の三枝成彰さんが挨拶した話が面白い。
 「もう1つこういうコンサートがある。(NHKのニューイヤーオペラコンサートのこと)。あっちはね、なんか人選が(偏っていて)局好みの人ばっかりが選ばれる。ここは公平で二期会からも藤原歌劇団からも他からも実力者が出ている」と例のごとくニコニコしながら辛口コメントした。
 ははあ、全くだ。
 業界の重鎮だからこそ、こういう場でも遠慮しなくて言えるのだ。
 ニューイヤーオペラコンサートの方に、毎年出ている福井敬さん、林美智子さんなど確かに「御用達」感がある。三枝さんはよくいった。
 「オペラ紅白」の方は、団体が推薦してきても、別の人をオファーするケースも多いらしい。だが、選考眼は間違っていない。今年もソプラノの砂川涼子さん、嘉目真木子さん、バスの妻屋秀和さん、テノールの藤田卓也さん、笛田博昭さん、村上敏明さんと計6人もの歌手の人が、NHKとオペラ紅白と両方で選ばれているのである。
 昨年の私の席はステージに向かって左寄りだったが、今年は思い切り右寄りで、それぞれの音の響きを楽しんだ。今回は私が何拾年も会員になっているN響定期演奏会のS席に近かったので馴染みの席であった。
 後から知ったのは私の真上のあたりに古くからの友人が来ていた。彼女から電話がかかってきて、「オケが煩かったので疲れちゃった」と文句をいわれた。彼女はオペラマニアで、毎年ドイツに出かける通である。
 私は「はあはあ」と聞いていたが、オペラ紅白はアリアばかりの演奏会形式、劇オペラの舞台ではない。オケピットの音より大きいのは当たり前だ。静かに「劇を楽しみたかったら歌合戦に来るな」と言ってやりたかったが、止めた。